
介護福祉士国家試験に「パート合格」が導入されると聞いて、今までの試験と何が変わるのか気になる人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、パート合格制度の概要や導入時期、合格基準などについてくわしく解説します。
介護福祉士の資格取得を目指している人は、ぜひ最後までお読みください。
介護福祉士国家試験のパート合格制度とは?
パート合格とは、現行の筆記試験で受験している全13科目を「A・B・C」の3つのパートにわけて受験できるようになる制度です。
1日で全パートの試験を実施し、初回は全員が全パートを受験します。合格したパートは2年間有効となり、次回以降の試験で免除されます。この新しい制度により、受験者は最長3年間で段階的に資格を取得することが可能になります。
介護福祉士国家試験のパート合格はいつから導入される?
介護福祉士国家試験のパート合格制度は、2025年度1月実施の第38回介護福祉士国家試験から導入される予定です。
年度 | スケジュール |
2025年度(2026年1月実施試験) | 第38回介護福祉士国家試験パート合格制度導入 |
2026年度(2027年1月実施試験) | 第39回介護福祉士国家試験パート合格者の受験開始 |
(出典:厚生労働省「パート合格導入のスケジュール(運営面について)」)
ただし、導入の時期は変更になる可能性もあるため、今後の動向に注意が必要です。
介護福祉士国家試験のパート合格制度の概要
試験科目や受験費用、合格基準などをくわしく見ていきましょう。
各パートの科目
科目一覧を表にまとめました。
パート | 試験科目 | 出題数 |
A | 人間の尊厳と自立 | 2 |
介護の基本 | 10 | |
社会の理解 | 12 | |
人間関係とコミュニケーション | 4 | |
コミュニケーション技術 | 6 | |
生活支援技術 | 26 | |
小計 | 60 | |
B | こころとからだのしくみ | 12 |
発達と老化の理解 | 8 | |
認知症の理解 | 10 | |
障害の理解 | 10 | |
医療的ケア | 5 | |
小計 | 45 | |
C | 介護過程 | 8 |
総合問題 | 12 | |
小計 | 20 | |
合計 | 125 |
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」)
受験する試験科目や、各科目の出題数はパート合格の導入前後で変更はありません。
受験費用
パート合格制度導入後の受験費用は、現行と同じ18,380円となる予定です。
これは、制度の変更に伴う経費の増加を、試験運営の効率化によってある程度抑えられると考えられるためです。
一方、全パート受験と一部のパート受験とで事務手続きの内容に大きな差がない点から、受験費用は一律とすることが望ましいとされています。
受験当日の流れ
受験当日のスケジュールは、以下の通りです。
時間 | 実施するパート | ||
午前 | Aパート試験 | ||
お昼休憩 | (Aパートのみの受験者は退室) | ||
午後 | B・Cパート試験 | Bパート試験 | Cパート試験 |
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」)
午前中はAパートを実施し、午後は「B・Cパートを受ける人」「BまたはCパートのみを受ける人」を同時に実施します。
一部パートのみを受験する人の拘束時間を減らし、運営側の人件費や会場借料などの経費を抑制する狙いがあります。
合格基準と有効期限
合格基準は以下のように検討が進められています。
受験パート | 合格基準 |
全パート受験する場合 | 現行と同様に、問題の総得点の6割程度を基準として、問題の難易度で補正した点数以上かつ試験科目群すべてにおいて得点がある。 |
一部のパートのみ受験する場合 | 全体の合格基準点に対し、全科目の受験者の平均得点の比率で決定する。かつ、各パートを構成する科目群すべてにおいて得点がある。 |
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」)
合否判定は、まず全パートの総得点で判断し、結果が不合格だった場合はパートごとに合否を判定します。
パート合格の有効期限は、受験した年の翌々年(2年後)までです。
介護福祉士国家試験のパート合格導入の背景
日本では少子高齢化が進んでおり、2040年度末までに新たに約57万人の介護人材の確保が必要とされています。
しかし、介護福祉士国家試験(以下、国家試験)の受験者数は第31回の試験以降、徐々に減少していることが喫緊の課題でした。
国家試験を受験する人の約8割が「実務経験ルート」であり、人手不足の中での就労と試験勉強を両立することの難しさが受験者減少の一因だとする声もあります。
また、外国人介護人材の受け入れを段階的に拡充してきた中で、国家試験を受験する外国人の方も増えています。
外国人の在留資格『特定技能「介護」』は、在留期間中に介護福祉士を取得することで『在留資格「介護」』に変更し、引き続き日本での介護業務に従事できるためです。
一方、外国人の方は現場の業務と試験勉強に加えて日本語の勉強も必要となるため、合格率が低くなってしまうことも課題のひとつです。
以上の課題解決に向けて有識者で検討を重ねた結果、「より多くの人が受験しやすい仕組みにつながる」としてパート合格の導入に至りました。
パート合格制度を導入するメリット・デメリット
制度の導入にあたって想定される、メリットとデメリットを紹介します。
パート合格導入のメリット
- 受験者の心理的負担が軽減される
- 自分のペースで勉強できるため、働きながら資格を取得しやすくなる
- 外国人人材の活躍促進につながる
一度合格したパートは2年間有効のため、「一度に全科目合格しなくては」というプレッシャーが軽減され、受験者数の増加が期待されます。
また、一部のパートに絞って勉強できる点から、就労との両立が容易になる点もメリットです。
外国人の方も、仕事や語学学習と並行して試験勉強にも取り組みやすくなり、専門的な知識を有する介護人材の確保につなげられるでしょう。
パート合格制度を導入するデメリット
- 合格難易度の低下により専門性も下がる可能性がある
- 簡単な資格だと認知され、社会的価値に影響する懸念がある
- 試験の複雑化により運営コスト増加の恐れがある
試験を複数回にわけることで現行より難易度が下がり、知識が定着しないまま介護福祉士になる懸念があります。
ただし、試験科目や問題数は現行の試験と同等のため、各パートの勉強に専念することで専門性の低下は避けられるでしょう。
また、パート合格導入に関して関係団体から意見聴取を行った際、介護福祉士の社会的評価への影響を懸念する意見がありました。
上記に関しては、国をあげてパート合格を導入する背景や内容などを情報発信し、介護福祉士の役割や専門性について誤解が生じないよう務める方針となっています。
試験の複雑化による運営コストの増加を問題視する声もありますが、運営の効率化も同時に進められています。
なお、パート合格制度導入後も、受験者数や合格者数などの変化について検証を行う予定です。
まとめ

介護福祉士国家試験のパート合格は、介護人材の確保が急務とされる中で国家試験の受験者数が減少している背景から、導入される制度です。
現状では2025年度(令和7年度)の第38回試験から導入される見込みで、受験科目や出題範囲に関しては現行と同等になります。
導入時期は変更になる可能性もありますが、これまで勉強した内容も問題なく役立てられるので、現在試験勉強中の人は安心してください。
今まで仕事との両立の難しさから受験できなかった人も、この機会にぜひ介護福祉士の資格取得を検討してみましょう。
監修者:中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士
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