
ストレス社会といわれる現代において、福祉の現場でも心理的サポートの重要性が高まっています。
公的機関や福祉施設などで活躍している臨床心理士について、どのような資格なのか気になっている人も多いのではないでしょうか。
本記事では、臨床心理士の資格概要や仕事内容、年収などをくわしく解説します。
臨床心理士とは
臨床心理士は、心の問題や悩みを抱える人々に対して、心理学の知識とカウンセリング技術を用いて援助を行う心の専門家です。
子どもから高齢者まで、クライエント1人ひとりの個性を尊重しながら、問題解決と自己実現のためのサポートを行います。
臨床心理士は国家資格ではなく、日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格で、2024年4月1日現在約41,883人が認定されています。
臨床心理士の資格概要
臨床心理士の資格概要を以下にまとめました。
項目 | 内容 |
主な受験資格 | ・指定大学院(1種・2種)を修了し、所定の条件を満たしている者・臨床心理士を養成する専門職大学院を修了した者・諸外国で指定大学院と同等以上の教育歴があり、終了後の日本国内における心理臨床経験2年以上を有する者・医師免許取得者で、取得後に心理臨床経験2年以上を有する者 など。 |
受験費用 | ・申請書類の請求:1,500円・資格審査料:30,000円・臨床心理士登録料:50,000円 |
試験内容 | <一次試験>・100題のマークシートによる多肢選択方式試験(2時間30分)・論文記述試験(1時間30分) <二次試験>口述面接試験 |
試験は例年東京で行われるため、遠方の方は旅費や宿泊費がかかることも想定しておきましょう。
また専門資質の維持向上や、有資格者自身の心の健康を保つなどの目的で、5年ごとに資格の更新が定められています。
更新の要件は、協会が定めた研修会への参加や論文の発表などを通じて、5年以内に計15ポイント以上を取得することです。
臨床心理士の活躍する場所
臨床心理士が活躍する場所は、非常に多岐に渡ります。
代表的な勤務先と役割を、分野別にまとめました。
分野 | 主な勤務先 | 主な役割 |
医療・保健 | ・病院(精神科、心療内科、小児科など)・精神保健福祉センター・保健所・老人保健施設 など | ・医師の指示のもと、心理検査やカウンセリングを実施・アルコール依存症、薬物依存症などの家族教室の開催 |
教育 | ・学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校など)・教育委員会・教育相談機関 など | ・児童や生徒およびその保護者のカウンセリング、心理的支援 |
福祉 | ・児童相談所・児童福祉施設・市町村の子育て支援担当課・障害者支援施設・療育施設・DV相談支援センター・老人福祉施設 など | ・児童の発達や育児に関する相談援助・虐待やDV被害者への支援・障がいを持つ本人や保護者の心理的ケア |
司法・法務・警察 | ・家庭裁判所・少年院・刑務所・保護観察所・警察署 など | ・調査員として少年事件や家事事件に関与・非行少年の心理査定や相談対応・受刑者への更生支援 |
産業・労働 | ・企業内の健康管理センター・公共職業安定所・障害者センター など | ・従業員へのメンタルヘルスケア・休職者の職場復帰支援・従業員や管理職への研修実施 |
大学・研究 | ・大学・短期大学・専門学校・研究機関 など | ・臨床心理学の研究・後進の育成 |
上記以外に、フリーランスの臨床心理士として個人やカップルなどに心理サービスを提供する働き方も可能です。
職場によってサービスを提供する年齢層や属性が大きく異なるため、自分の希望を明確にしたうえで就職先を選びましょう。
臨床心理士の仕事内容
臨床心理士の専門業務を4つご紹介します。
①臨床心理査定(アセスメント)
さまざまな心理テストや観察面接を通して、クライエントの個性や課題などを評価し、適切な支援方法を考察します。
必要に応じて他職種の職員や外部の専門家も交えて検討を行うことも、統一感のあるサポートを実施するために欠かせません。
②臨床心理面接(カウンセリング・心理療法)
クライエントの課題に応じた心理療法を行い、心の問題の解決や苦痛の軽減を目指します。
代表的な心理療法を以下にまとめました。
名称 | 概要 |
クライエント中心療法 | 「クライエントが中心で、カウンセラーは脇役」という考え方のもと行う療法。カウンセラーは積極的なアドバイスではなく傾聴を重視し、クライエント自身が問題解決の力を取り戻せるよう支援する。 |
認知行動療法 | クライエントが抱えている課題に対し、考え方や思考法を変えていくことで課題の解決や苦痛の軽減を図る療法。カウンセラーは傾聴だけでなく提案も行い、クライエントも新たな考え方を取り入れて行動する。 |
芸術療法 | 絵画・音楽・写真・ダンスなどを通じて自己表現を行い、課題解決の糸口へつなげていく療法。 |
上記以外にも数多くの心理療法が存在するため、臨床心理士は絶えず自己研鑽を積み、専門性を高めていくことが大切です。
③臨床心理的地域援助(コミュニティ支援・コンサルテーション)
地域住民や学校、職場に所属する人々の心の健康や問題解決のサポートを行うことも仕事のひとつです。
自然災害や事故などに対する心のケアや、ストレスとうまく付き合っていくための予防的働きかけも行います。
④調査・研究
これまで解説してきた①〜③に関する調査や研究を行い、臨床心理に関する技術と知識の向上に努めます。
さらに事例研究や調査の結果を研修会などで発表することで、他の臨床心理士がより効果的な支援方法を見出すための一助となるでしょう。
臨床心理士に関するよくある質問
臨床心理士に関する、よくある質問2つを解説します。
臨床心理士の平均給与は?
臨床心理士の全国的な平均給与は以下の通りです。
正社員 | 平均年収:371万円平均月収:31万円 |
アルバイト・パート | 平均時給:1,232円 |
派遣社員 | 平均時給:1,490円 |
(出典:求人ボックス)
なお、全体の給与幅(年収)は323〜887万円と幅広く、勤務先やスキルなどによって大きな差が生じると考えられています。
臨床心理士は非常勤の割合が約半数というデータもあり、複数の職場を掛け持ちして働く人が多いのも特徴です。
臨床心理士と公認心理師の違いは?
臨床心理士は民間資格であるのに対し、公認心理師は2017年に施行された日本初の心理系国家資格です。
臨床心理士は資格取得後5年に一度の更新が必要である一方、公認心理師は一度取得すると更新はありません。
受験資格に関しても以下の違いがあります。
- 臨床心理士・・・条件を満たした大学院の修了が必須
- 公認心理師・・・大学卒業と実務経験で受験資格を得られるルートもある
現在両資格の業務内容に大きな違いはありませんが、今後は医療や公的機関などで公認心理師しかできない業務が増える可能性もあります。
一方、臨床心理士は1988年に設立した資格で社会的認知度や信頼性が高いことから、近年は両方の資格取得を目指す人も増えています。
まとめ

臨床心理士は、心理学に関する専門的な知識を有し、社会的な信頼性の高い資格です。
勤務先の利用者はもちろん、勤務する職員のメンタルヘルスにも携われるため、大きなやりがいを感じられる職業だと言えます。
心理学の知識を得て福祉職で働きたい方は、臨床心理士の資格取得をぜひ検討してみましょう。
監修者:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士)
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