
近年、日本では豪雨や地震などの大規模な災害が発生することも珍しくなく、福祉施設における災害対応に課題を感じる人もいるのではないでしょうか。
今回は、災害時の介助や応急手当などの方法を学べる資格である、防災介助士について解説します。
くわしい試験内容や防災士との違いも紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
防災介助士とは?
防災介助士は、国家資格ではなく「公益財団法人 日本ケアフィット共育機構」が認定する民間資格です。
災害発生時、高齢者や障がい者は健康で障がいのない人以上に必要な情報を得たり、迅速に避難したりするのが困難になります。
2011年の東日本大震災では、被災者全体の死者数のうち約6割が65歳以上の高齢者で、障がい者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍でした。
防災介助士の資格取得講座では、災害からの避難に支援が必要な「避難行動要支援者」への対応に焦点をあて、介助や搬送、応急手当について学びます。
さらに日常から防災を意識して行動し、災害発生時に誰も置き去りにしない「インクルーシブ防災」を実践することが当資格の目的です。
防災介助士を取得するメリット
防災介助士は民間資格ですが、履歴書に記載できる資格のため、就職や転職において採用担当者へのアピール材料になります。
福祉施設で働く人は、防災介助士を取得することで災害発生時にパニックにならず、落ち着いて利用者の安全確保に務められるでしょう。
学習カリキュラムにはチーム作りの基本に関する内容も含まれており、職員同士で連携が必要な場面でも役立ちます。
防災士との違い
防災士は「認定特定非営利活動法人 日本防災士機構」が認定する民間資格です。
防災介助士が、主に高齢者や障がい者などの災害弱者への介助を学ぶのに対し、防災士は主に地域や職場での避難誘導や初期消火の方法を学びます。
平時は地域や自治体での防災訓練を担うほか、他地域が災害に見舞われた際、ボランティアとして被災地支援にあたることも可能です。
防災介助士の資格取得方法
防災介助士の資格を取得するには、日本ケアフィット共育機構が主催する講座を受講し、試験に合格する必要があります。
ここから試験の概要と資格取得までの流れを見ていきましょう。
講座の概要
防災介助士の資格認定講座の概要をまとめました。
受講要件 | 特になし※妊娠中の人は受講不可 |
受講料 | 27,500円 |
教材 | テキスト1部、課題1部 |
提出課題 | あり(1回)全100問 100点満点中70点以上で合格 |
実技教習 | あり(1日) |
検定試験 | あり(筆記試験50問 100点満点中70点以上で合格)※不合格の場合、試験料3,300円で再試験が可能 |
受講期間 | 申込みから12か月以内 |
(出典:公益財団法人 日本ケアフィット共育機構)
受講要件に定めはなく誰でも受講できますが、実技教習で一定の運動量を伴うため、妊娠中の人は受講できません。
健康状態に不安がある人も、申込み前に事務局へ相談しましょう。
また、学割制度が設けられており「小学校〜大学院生」までのいずれかの現役生かつ個人で申込みする場合は、受講料が26,400円になります。
資格取得の流れ
資格取得までのおおまかな流れを、4つの項目に分けて解説します。
1.受講申込み
「防災介助士」公式ホームページの申込みフォームより、申込み手続きを行います。
受講料の支払い方法は、銀行振込またはクレジットカードです。
申込み手続き完了後、テキスト1部と課題1部が送付されます。
2.自宅学習・課題提出
自宅でテキスト学習を行った後、課題(100問)に取り組み所定の送付先に提出します。
70点以上獲得で実技教習へ進むことができ、70点未満の場合は再提出が必要です。
3.実技教習・筆記試験
実技教習は現地参加となっており、以下の開催地域から希望する場所を選んで申込みます。
- 札幌
- 東京
- 大阪
- 福岡
当日の流れは、9:30~16:00に実技教習、16:00〜17:00に筆記試験です。
スカートや襟ぐりの広いトップス、ヒールのある靴などは避け、ズボンや運動靴といった動きやすい服装で参加しましょう。
4.認定状・認定証の授与
筆記試験70点以上獲得で合格となり、資格認定状と認定証が授与されます。
なお、防災介助士資格取得講座では救急救命講習の取得を推奨しています。
必須ではないものの、受講しておくとより幅広い救命の知識とスキルを身につけられるでしょう。
学習内容
防災介助士の資格取得講座テキストの概要は以下の通りです。
- 【第1部】防災介助士の基本理念と社会的必要性
- 【第2部】防災介助士に必要な防災の視点
- 【第3部】災害事象の理解と対応
- 【第4部】災害時に即応する防災技術
- 【第5部】関連法規・制度
続いて、実技教習の概要を表にまとめました。
災害の理解 | 防災・脆弱性・各地の災害 |
自らの命を守る | 防災意識チェック |
地域安全 | ハザードマップ |
救急・介助技術 | 搬送・ロープワーク・応急処置 |
共育的リーダーシップのためのワーク | ICS(現場指揮システム)・サーチ&レスキュー・ロールプレイ |
実技教習では、椅子や毛布を使って搬送する方法や、三角巾を使って足首を固定する方法について学びます。
いずれも多くの福祉施設で常備されているものなので、非常事態にも落ち着いて対処できるでしょう。
資格取得までの平均期間と合格率
「防災介助士」の公式ホームページによると、資格取得までの平均期間は2〜3か月、合格率は約8割です。
万が一、筆記試験で不合格になった場合も有料で再試験が可能なため、最終的にはほとんどの人が合格できると考えられます。
なお、受講期間は申込みから12か月以内ですが、やむを得ない事情がある場合は受講期間を最大延長することもできます。
ただし、申請内容によっては延長申請料2,200円が必要になる場合があるため、受講期間内に資格を取得するのが望ましいです。
資格取得後は3年ごとの更新が必要
防災介助士の資格の有効期限は3年間です。
継続して資格を保有したい場合は、期限までに更新手続きを行い、更新料の3,300円を支払いましょう。
有効期限を過ぎると資格は失効されますが、引っ越しや長期療養などで資格更新の手続きが困難だと認められた場合、特例として救済するルールがあります。
該当する人は、一度事務局へ問い合わせてください。
忙しい人は准防災介助士を取得するのもおすすめ
准防災介助士は「一般社団法人 ケアフィット推進機構」が認定する民間資格です。
学習カリキュラムに実技教習がなく、防災介助士と同じテキストを使用しての自宅学習と、課題提出の合格のみで資格取得が可能です。
さらに准防災介助士の取得から1年以内に防災介助士の資格取得講座を申込むと、課題提出が免除され、受講料が13,200円に割引されるメリットもあります。
実技教習の受講時間をすぐに確保できないけど、福祉職に役立つ防災知識を得たい人は、まず准防災介助士を取得するとよいでしょう。
まとめ

「災害対応や防災に役立つスキルを習得したい」と考える福祉職の人々にとって、防災介助士は気軽に受講でき、現場で役立つ知識を得られる資格です。
実技教習では搬送やハザードマップの確認、ロールプレイも行えるため、災害発生時にも落ち着いて対処できます。
さらに、平時から防災の知識をほかの職員や利用者に共有することで、職場以外で災害が発生した際にも安全に避難できる確率も高
ります。
いつ起こるかわからない災害への対策を万全にするために、ぜひ防災介助士の資格取得を検討してみましょう。
監修者:中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士
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