
「BPSDとは何だろう」「怒鳴られたのは自分の対応が悪かったからではないか」
介護の現場に入って間もない方のなかには、このような悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
BPSDは、認知症の方の行動や心理面に現れる症状です。一見「問題行動」に見えても、実は本人からのSOSのサインだといわれています。
今回は、BPSDの基礎知識や関わり方、対応がつらいときに自分を守る方法などを解説します。
認知症の症状は2種類に大別できる
認知症の症状は、大きく「中核症状」と「BPSD」の2つに分けられます。
まずは両者の違いをみていきましょう。
中核症状とは
中核症状とは、脳が萎縮して起こる認知機能の障害のことです。具体的には、次のようなものがあります。
- 記憶障害(新しいことを覚えられない)
- 見当識障害(時間や場所がわからなくなる)
- 理解力・判断力の低下
- 実行機能障害(計画を立てて段取りよく行動できない)
- 失語(ことばの理解や表出が難しい)
- 失行(体は動くのに、やり方がわからず目的の動作がうまくできない)
- 失認(見えたり聞こえたりしているのに、それが何かわからない)
たとえば記憶障害では、新しいことを覚えられないだけでなく、少し前の会話や行動そのものを忘れてしまうことがあります。
また見当識障害では、慣れた場所でも迷ってしまったり、今が何月なのか、朝なのか夜なのかがわからなくなったりすることがあります。
中核症状は、認知症の進行とともに少しずつ重くなっていくのが特徴です。
BPSDとは
BPSDとは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、日本語では「行動・心理症状」と訳されます。
中核症状を基盤に、本人の心理状態や体調、生活環境、周囲の関わり方などが影響し合って生じる症状で、すべての方にみられるわけではありません。BPSDは、次のように大きく「行動面」と「心理面」に分けられます。
【行動面】
- ひとり歩き(徘徊)
- 大声
- 暴力・暴言
- 介護拒否
- 同じ行動の繰り返し
【心理面】
- 不安や抑うつ
- 妄想
- 幻覚・幻視
- 睡眠障害
- 易怒性(怒りっぽくなること)
たとえばひとり歩きは、見当識障害によって慣れた場所がわからなくなり、その不安から安心できる場所を探して歩き続けてしまう状態です。
また、妄想にはいくつかの種類がありますが、代表的なものが「物盗られ妄想」です。記憶障害によって「置いた場所を忘れた」という事実を認識できないために、誰かに盗られたと思い込んでしまう症状です。
BPSDの現れ方は利用者によって異なり、同じ症状であっても、その背景は一人ひとり違います。そのため、「なぜその行動をとるのか」「なぜそのような心理状態になるのか」と考える姿勢が欠かせません。
中核症状が認知症の進行とともに重くなっていくのに対し、BPSDは周囲の関わり方や環境を整えることで和らげられることがあります。この点が、両者の大きな違いです。
BPSDは問題行動ではなく「SOSのサイン」
BPSDは問題行動ではなく、本人からのSOSのサインと考えられています。本人が言葉にできない不調や不安を、行動で表現しているのです。
たとえば「家に帰りたい」という訴えの裏には、「不安だから安心したい」「家族に会いたい」など、さまざまな気持ちが隠れている場合があります。
入院や施設入所で環境が変わると、そこが病院や施設であることを認識できなくなる方もいます。慣れた自宅へ帰りたいという思いから、帰り道を探して歩き回ることもあるでしょう。
また、体の痛みや不快感をうまくことばにできず、「帰りたい」という訴えでその場から逃れようとする方もいます。表面的な言動だけで判断せず、その人なりのSOSのサインとして受け止めることが、適切な対応につながります。
新人介護職が押さえておきたいBPSD対応のポイント
BPSDの裏にある気持ちに目を向けると、適切な対応が見えてきます。
しかし、いざ現場で対応するとなると、何を意識すればよいか迷う方も多いのではないでしょうか。
ここでは、新人介護職の方が押さえておきたい、BPSDへの対応のポイントを紹介します。
否定せずに気持ちを受け止める
間違いを正そうとして強く否定すると、不安や混乱がかえって強まることがあります。まずは「そうなのですね」と気持ちを受け止め、共感する姿勢を大切にしましょう。
たとえば「財布を盗まれた」と訴える方に「盗まれていませんよ」と否定すると、疑いや不信感を強めてしまいかねません。
「それは心配ですね、一緒に探しましょう」と気持ちに寄り添って対応すると、落ち着きを取り戻しやすくなります。
話題を変えて気持ちを切り替える
同じ話を「さっきも言いましたよ」と正そうとしたり、「もう少し待ってください」と説得を続けたりすると、かえって不安やいら立ちを強めてしまうことがあります。
そのようなときは、好きな話題を持ち出したり、なじみのある簡単な作業をお願いしたりするとよいでしょう。
「お茶でも飲みながら少し休みましょうか」「お天気がいいですね、お花がきれいに咲いていますよ」など、心地よいと感じられることに気持ちを向けてもらうと、行動が落ち着いてくることがあります。
安心できる環境を整える
認知症の方は、音や光、環境の変化などの刺激に敏感で、日常の何気ない出来事が大きなストレスになりやすいといわれています。たとえばテレビやラジオの音、人の話し声は、集中力を乱し、いら立ちにつながることがあります。
そのため、音量を下げる、人の出入りを減らすなど、周囲からの刺激を抑える工夫をしましょう。家具や物の配置も、できるだけ変えないようにします。
また、夕方になると、暗くなった景色を見て不安が強まる方もいます。早めに部屋を明るくして、安心して過ごせるようにしましょう。
BPSDと介護ハラスメントの違い
BPSDによる暴言や強い拒否に直面すると、ハラスメントを受けたと感じる職員もいるでしょう。
しかし厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、認知症などの病気や障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとしてではなく、医療的なケアによって対応すべきものと位置づけられています。
一方、職員個人への嫌がらせや、症状とは関係のない言動は、通常のハラスメントとして扱われます。
BPSDによる言動をすべてハラスメントと決めつけてしまうと、本人への理解が深まらないまま、必要な対応の検討も後回しになりかねません。
まずは「症状によるものかもしれない」という視点をもち、その言動の背景に目を向けてみましょう。ただし、症状によるものであっても、職員が痛みや恐怖を我慢し続ける必要はありません。自分自身を守る方法は、次で紹介します。
BPSDの対応がつらいときに自分を守る方法
BPSDが強く出ている利用者への対応がつらいときは、次のような行動を心がけましょう。
- 一旦距離をとり、安全を確保する
- 可能であれば担当者を交代する
- 時間・状況・対応後の変化を記録に残す
- 先輩職員や看護師、必要に応じて医師に相談する
特に記録は、「またあの人が怒った」で終わらせず、直前の状況や体調、声かけの順番などをあわせて残しておくと、次に同じ状況を防ぐ手がかりになります。
BPSDへの対応は、職員ひとりの我慢や工夫で乗り切るものではありません。チーム全体で取り組むものだと考えましょう。
まとめ

BPSDは、中核症状に心理的・身体的・環境的な要因が重なって生じるもので、本人からのSOSのサインだと考えられています。利用者の訴えを否定せず、安心できる声かけや環境づくりを心がけることが対応のポイントです。
症状として現れた言動は、職員へのハラスメントとは区別して考えられていますが、度重なる訴えや行動への対応を大変だと感じることもあるでしょう。
自分自身の心と体を守ることも欠かせません。相手の行動の背景に目を向けながら、チームで対応できる体制も整えていきましょう。
監修:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、保育士)


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