
介護現場で活躍する職種のひとつに機能訓練指導員があります。
利用者の機能訓練を担当する職種として活躍していますが、「どのような職種なのかよくわからない」と思う方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、機能訓練指導員の仕事内容や資格要件、働く場所について詳しく解説します。
また、気になる年収についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
機能訓練指導員とは
機能訓練指導員とは、利用者の心身機能や日常生活動作能力の維持・向上を支援する職種です。
デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護施設に勤務し、一人ひとりに合わせた機能訓練を計画・実施します。
介護保険サービスの目的には「自立支援」と「重度化防止」があり、地域の要介護者が元気に暮らし続けるためにも、機能訓練指導員による訓練は重要な役割を担っています。
機能訓練指導員の仕事内容
機能訓練指導員の主な仕事内容を解説していきます。
計画の作成と実施
利用者一人ひとりの心身機能や生活環境、希望を踏まえ、計画書を作成します。
たとえば、「トイレで気持ちよく用を足したい」という希望があれば、それを達成するための計画を立てるのです。
この場合、排泄に必要な下肢の筋力やバランスなどを評価し、課題となる部分に対して訓練を実施します。
訓練は個別または集団で行われ、利用者の心身機能や目標に応じて、負荷や難易度が調整されます。
計画内容の見直し
機能訓練の計画書は3か月に1回の見直しが必要です。
機能訓練指導員は、目標の達成を妨げている要因を分析し、達成状況に応じて訓練内容を修正します。
たとえば「トイレでの排泄動作の自立」という目標に対し、下肢の筋力強化訓練を実施したことで、安定して立てるようになったとしましょう。
しかし利用者から「移動やトイレでの動きは安定したが、時間がかかって間に合わないことがある」との声があれば、動作の効率化や環境の工夫が必要になる場合もあります。
そのため、以下のように訓練内容の追加・修正をします。
- ズボンの着脱を素早く行うための手の練習をする
- トイレまでの道のりに手すりを設置し、速く歩く練習をする
このように、設定した目標の達成状況をモニタリングし、必要に応じて計画内容を見直すことが大切です。
実施記録の作成
実施記録を作成する際は、機能訓練の内容・実施時間・担当職員の氏名を記録し、訓練時の様子や進捗状況を詳細に残します。
特に利用者の反応や動作の変化、目標達成に向けた改善点などを具体的に記載し、関係者が情報を共有できるようにまとめられている必要があります。
機能訓練指導員になるための資格要件
機能訓練指導員として従事するためには、以下の国家資格が必要です。
それぞれの仕事内容や特徴を紹介します。
資格 | 仕事内容や特徴 |
理学療法士 | 立つ・座る・歩くなどの基本的動作能力の回復に向けて、訓練を実施する運動療法(関節の可動域を改善する運動、筋力トレーニングなど)や、物理療法(温熱療法、電気刺激など)を行う |
作業療法士 | 食事・入浴・排泄などの応用的動作能力の回復に向けて、訓練を実施する外出・就労・趣味活動などの社会適応能力の回復に向けた訓練も行う |
言語聴覚士 | 聞く・話すなどのコミュニケーションに関する機能・能力の回復に向けて訓練を実施する噛む・飲み込むなどの摂食・嚥下機能の回復を目的とした訓練も行う |
看護師・准看護師 | 注射・点滴・採血、けがの処置、バイタル測定、服薬管理といった医師の診療の補助や、療養上の世話を行う |
柔道整復師 | 骨折・脱臼・ねんざなどのけがに対して整復や固定を行う物理療法や運動療法、手技療法(もむ・さするなど)を用いた施術も行う |
あん摩マッサージ指圧師 | 指圧やマッサージによって筋肉のこりをほぐし、血行を促進させる背骨のゆがみを矯正し、症状の緩和や体力の回復を図る |
はり師・きゅう師 | 身体のツボに対し、はり刺激やきゅうによる温熱を加えて自然治癒力を高める施術をするはり師・きゅう師が機能訓練指導員として従事するためには、当該資格者以外の指導員が在籍する施設で6か月以上の実務経験が必要となる |
これらの資格を取得するには、養成校へ入学し国家試験に合格する必要があります。
機能訓練指導員が働く場所
機能訓練指導員は介護保険の制度上、以下のサービスを提供する施設において配置が義務付けられています。
それぞれの特徴をみていきましょう。
配置が義務付けられている介護サービス | 特徴 |
通所介護(デイサービス) | 利用者が自宅から通所して介護や機能訓練を受ける施設レクリエーションや集団活動が充実事業所によっては機能訓練に特化したサービスを提供 |
短期入所生活介護(ショートステイ) | 利用者が短期間入所し、日常的な介護や機能訓練を受けられる施設特別養護老人ホーム、一部の有料老人ホーム、ショートステイ専門施設などでサービスを提供 |
認知症対応型通所介護(認知症デイサービス) | 認知症の利用者を対象とした専門的な介護や機能訓練を提供する施設認知症の特性に配慮したケアを提供 |
特定施設入居者生活介護 | 有料老人ホーム、軽費老人ホーム、養護老人ホームなどの入所者に対して介護や機能訓練、療養上の世話を提供 |
介護老人福祉施設サービス(特別養護老人ホーム) | 特別養護老人ホームの入所者に対して、日常生活の介護や機能訓練を提供 |
施設ごとの特徴に応じて、求められる専門知識やスキルは異なります。
たとえばデイサービスでは、機能訓練により特化したスキルが必要な場合もあります。
また、特別養護老人ホームのように長期的な生活支援を行う施設では、介護や日常生活の支援に関するスキルが求められることもあるでしょう。
機能訓練指導員の年収
機能訓練指導員の常勤と非常勤の年収を、令和4年12月のデータから試算します。
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」を参考にみていきましょう。
【常勤の年収】
項目 | 金額 |
平均給与額(月給) | 35万5,720円 |
平均基本給額 | 22万9,090円 |
年収(賞与含む) | 472万6,820円 |
賞与を含めた年収は、約473万円と推計できます。
月給の35万5,720円に12か月を乗じて年間の給与総額を計算したのち、平均基本給額22万9,090円の2倍を賞与として見込み、算出しました。
【非常勤の年収】
項目 | 金額 |
平均給与額(月給) | 23万3,310円 |
年収(賞与なし) | 279万9,720円 |
非常勤の年収は約280万円と推計しました。
単純に月給の12か月分で算出し、賞与は考慮していません。
この調査では、機能訓練指導員の勤務先による給与の違いは示されていません。
実際には勤務先によって給与が異なるため、上記の年収はあくまで参考としてください。
機能訓練指導員のきついところ
機能訓練指導員は、利用者の身体機能や日常生活動作を改善するために欠かせない存在ですが、仕事内容がきついという声もあがっています。
以下で、きついと思う代表的な点を紹介しますので、参考にしてください。
訓練が思うように進まないことがある
機能訓練の対象者は要介護者であり、身体機能や日常生活動作能力が低下しているだけでなく、認知機能が低下している方もいます。
なかには自身の状況を正しく認識できず、「今どこにいるのか」「何をすればよいのか」などがわからず、訓練内容を理解できない方もいるでしょう。
そのため、計画どおりに訓練を進めることが難しい場面もあります。
身体機能に関する専門知識があっても、認知機能の影響により思うように訓練が進まず、もどかしさを感じることがあります。
訓練以外の業務も担当する
機能訓練指導員は、訓練に加え介護や書類作成など幅広い業務を担う場合もあるため、覚えることが多くつらいと感じることもあるでしょう。
また配置基準が「1人以上」のため、最少人数で業務を回す施設もあり、忙しさや身体的負担を感じるという声も聞きます。
意見の食い違いに悩む場合がある
介護施設では多職種で連携するため、専門性や考え方の違いを理解する姿勢が求められます。
たとえば歩行訓練を計画しても、状況によっては車いすを使う必要があるなど、業務の優先順位が異なることで意見の食い違いが起こるかもしれません。
こういった考え方の違いに悩み、つらいと感じる方もいます。
まとめ

機能訓練指導員は、介護施設で利用者の心身機能や日常生活動作能力の維持・向上を支援する職種です。
所定の国家資格を取得した者が機能訓練指導員として従事できます。
介護保険分野で資格を活かしたいと思う方は、ぜひチャレンジしてみてください。
監修者:中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士
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