「職場で喀痰吸引等研修を受けるようすすめられたけど、どんな研修なの？」
「久々に介護職に復帰したけど、研修を受けるか悩んでいる」
介護施設に勤め始めて間もない方や、ブランクを経て介護職に復帰した方は、このような疑問を持つこともあると思います。
今回は、喀痰吸引等研修の内容や費用、介護職が受講するメリットをくわしく解説します。
喀痰吸引等研修とは
喀痰吸引等研修は、ご自身で痰を出せない方の痰吸引の方法や、口から食事を摂れない方の経管栄養を行う方法を学ぶ研修です。
痰吸引や経管栄養は原則として医療行為で、元々は医師や看護師のみが行えるものでした。
しかし2012年の法改正により、一定の研修を修了し、都道府県知事が認定した介護職員等は痰吸引や経管栄養の実施が可能になりました。
喀痰吸引等研修の3つの種類
喀痰吸引等研修には3種類あり、対象者や実施できる行為に違いがあります。
概要を表にまとめました。
| 研修の種類 | 対象者 | 実施できる行為 |
| 第1号研修 | 不特定多数の利用者 | ・喀痰吸引（口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部）・経管栄養（胃ろうまたは腸ろう・経鼻） |
| 第2号研修 | 不特定多数の利用者 | ・喀痰吸引（口腔内・鼻腔内）・経管栄養（胃ろうまたは腸ろう） |
| 第3号研修 | 特定の利用者（筋萎縮性側索硬化症（ALS）またはこれに類似する神経・筋疾患・筋ジストロフィー・高位頚髄損傷・遷延制意識障害、重症心身障害などの療養患者や障がい者） | ・喀痰吸引（口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部）・経管栄養（胃ろうまたは腸ろう・経鼻） |
自分が務めている施設で活用できる研修を選びましょう。
喀痰吸引等研修を介護職員が受講するメリット
介護職員が研修を修了するメリット3つを紹介します。
介護現場での評価が上がりやすくなる
例えば介護施設に勤務している場合、今まで看護師のみに任せていた痰吸引や経管栄養を介護職員も行えるようになると、対応できる利用者が広がります。
看護師の負担軽減にもつながるため、現場での評価が上がりやすくなるでしょう。
転職活動に有利になる
介護業界は慢性的な人手不足が課題となっており、さまざまなスキルや経験を持つ人材の確保が急務です。
喀痰吸引等研修を修了している介護職員は多様な利用者に対応できるため、転職活動に有利になり、より好条件の職場に就職できる可能性が高まります。
実践的なスキルが身につく
喀痰吸引等研修では、講義や演習のほか、実地研修も行います。
実地研修では実際に現場で使用する機材を使用するため、実践的なスキルを身につけることができ、修了後は自信をもって業務にあたれるでしょう。
喀痰吸引等研修を修了するまでの流れ
喀痰吸引等研修は、都道府県知事指定の研修機関（自治体主催の研修や民間のスクールなど）に申し込みをして受講します。
受験資格はなく、基本的に誰でも受講可能です。
申し込み方法はスクールによって異なるため、ホームページや電話などの問い合わせで確認しましょう。
ここから研修終了までの流れを解説していきます。
1．基本研修を受講し筆記試験に合格する
基本研修は「講義」と「演習」で構成されています。
カリキュラム内容を以下にまとめました。
| 基本研修の内容 | 講義・演習項目 |
| 講義 | ・人間と社会・保健医療制度とチーム医療・安全な療養生活・清潔保持と感染予防・健康状態の把握・高齢者及び障害児・者の喀痰吸引概論・高齢者及び障害児・者の喀痰吸引概論実施手順解説・高齢者及び障害児・者の経管栄養概論・高齢者及び障害児・者の経管栄養実施手順解説・筆記試験 （計50時間） |
| 演習 | ・喀痰吸引・口腔内・・・5回以上・喀痰吸引・鼻腔内・・・5回以上・喀痰吸引・気管カニューレ内部・・・5回以上・経管栄養・胃ろうまたは腸ろう・・・5回以上・経管栄養・経鼻経管栄養・・・5回以上・救急蘇生法・・・1回以上 |
第1号・第2号研修は、基本研修のカリキュラム内容が同じで、受講期間の目安は「講義9日間・演習1日・筆記試験1日」程度です。
第3号研修では、講義時間が8時間、演習時間が1時間となります。
2．実地研修を受講する
基本研修を修了し、筆記試験に合格したら実地研修に進みます。
実地研修の項目は以下の5つです。
- 喀痰吸引・口腔内・・・10回以上
- 喀痰吸引・鼻腔内・・・20回以上
- 喀痰吸引・気管カニューレ内部・・・20回以上
- 経管栄養・胃ろうまたは腸ろう・・・20回以上
- 経管栄養・経鼻・・・20回以上
実地研修は、研修の種類によって必要な項目が異なります。
- 第1号研修・・・上記①～⑤のすべてを実施
- 第2号研修・・・上記①②④を実施
- 第3号研修・・・上記①～⑤のうち、利用者に必要なものを実施
こちらも自身の職場で必要とされるものを考慮した上で選択しましょう。
3．修了証を発行し都道府県の認定を受ける
実地研修を修了したら研修機関より修了証を発行してもらい、都道府県に「特定行為業務従事者」の申請をします。
都道府県から認定を受けると、喀痰吸引等の業務に従事可能です。
喀痰吸引等研修の合格率
喀痰吸引等研修の試験は、受講者の9割が合格しているとされているため、難易度は高くありません。
講義内容に沿った問題が出題されるので、講義の内容をきちんと聞いて復習すると合格できる可能性がより高まるでしょう。
試験で不合格となった場合、再試験が可能です。
喀痰吸引等研修の基本研修が免除されるケース
介護福祉士実務者研修を修了している方は、喀痰吸引等研修の第1号・第2号研修の基本研修が免除され、実地研修のみ行う流れになります。
実務者研修で学ぶ医療的ケアのカリキュラムと第1号・第2号の基本研修の内容が共通しているのが免除の理由です。
介護福祉士の方も同様に、実務者研修を修了済みの方は基本研修が免除されますが、2015年以前に介護福祉士になった方は基本研修から受ける必要があります。
ただし、いずれの場合も喀痰吸引等研修の第3号の基本研修は免除の対象外となるため注意しましょう。
喀痰吸引等研修の受講費用
研修の費用は地域や研修機関により異なりますが、大まかな目安は以下の通りです。
| 研修の種類 | 受講費用 |
| 第1号、第2号研修 | 約4～20万円程度 |
| 第3号研修 | 約1～4万円程度 |
なお、第1号、第2号研修の実地研修のみの費用は2〜8万円程度が相場です。
自治体によっては介護職員向けの研修補助制度を設けていたり、勤務先で研修費用の一部を負担してもらえたりするケースがあります。
また、ハローワークの職業訓練給付制度を利用でき、一定の条件を満たせば受講料の最大50%が給付されます。
研修機関によっては独自の割引制度もあるため、研修費用を抑えられないか事前に調べておくとよいでしょう。
まとめ
喀痰吸引等研修は、自力で痰を出すことが難しい方への痰吸引や、口から栄養を摂取するのが難しい方への経管栄養を行えるようになる研修です。
介護職員が喀痰吸引等研修を修了すると、対応できる利用者や業務の幅が広がり、キャリアアップや転職にも有利に働きます。
介護福祉士実務者研修を修了している方は、第1号・第2号研修の基本研修が免除されるため、費用を抑えつつ短期間で取得できる点がメリットです。
今後できる仕事を増やしたいと思っている介護職の方は、ぜひ研修の受講を検討してみましょう。
監修者：中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士
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