
児童福祉法に基づく国家資格である「保育士」は、「中卒でもなれるのだろうか?」と疑問や不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、最終学歴が中卒でも、条件を満たせば保育士になることは可能です。
今回は、中卒から保育士になるための要件や、勉強方法について詳しく解説します。
中卒から保育士になれる2つのルート
中卒から保育士になるための方法は2通りあります。
順番に見ていきましょう。
1.高卒認定試験に合格し指定保育士養成施設を卒業する
保育士になる方法のひとつは、指定保育士養成施設を卒業することです。
指定保育士養成施設は「大学・短期大学・専門学校」のいずれかになるため、入学するには高卒認定試験(正式名称:高等学校卒業程度認定試験)に合格する必要があります。
指定保育士養成施設は2023年4月現在で全国に666か所あり、所定の単位を取得して卒業すれば、国家資格を受けなくても保育士資格を取得できます。
夜間や通信制を採用している施設もあり、日中働いた後に勉強しながら保育士を目指すことも可能です。
2.受験資格を得て保育士試験に合格する
保育士になるもうひとつの方法は、年2回実施される保育士試験を受験し、筆記試験と実技試験の両方に合格することです。
中卒で受験資格を得るには、児童福祉施設で5年以上かつ総勤務時間7,200時間以上、児童の保護に従事する必要があります。
「児童福祉施設」は、児童福祉法第7条に定められた以下の13施設です。
- 助産施設
- 乳児院
- 母子生活支援施設
- 保育所(保育所型認定こども園を含む)
- 幼保連携型認定こども園
- 児童厚生施設(児童館)
- 児童養護施設
- 障害児入所施設
- 児童発達支援センター
- 児童心理治療施設
- 児童自立支援施設
- 児童家庭支援センター
- 里親支援センター(令和6年4月1日以降の勤務に限る)
上記以外にも、幼稚園や放課後デイサービスなど、受験を希望する都道府県知事の認定を受けると実務経験として認められる施設も多数あります。
詳しく知りたい方は、全国保育士養成協議会の「受験資格詳細」をご確認ください。
中卒から保育士になるための勉強方法
保育士になるには幅広い分野の知識や実技を学ぶ必要があるため、ポイントを押さえて効率よく勉強することが大切です。
各ルートに応じた勉強方法をご紹介します。
高卒認定を受けて指定保育士養成施設の卒業を目指す場合
まずは高卒認定試験に合格し、指定保育士養成施設の受験資格を満たしましょう。
高卒認定試験の概要を表にまとめました。
| 受験資格 | 受験年度内に16歳以上になる、大学入学資格のない人 |
| 試験日程 | <2025年度>第1回試験:8月7日、8日第2回試験:11月8日・9日 |
| 受験費用 | 7科目~9科目:8,500円4科目~6科目:6,500円1科目~3科目:4,500円 |
| 受験科目 | <必修科目>国語・地理・歴史・公共・数学・英語※2026年から必修科目に「情報」が追加される予定 <選択科目>①②のどちらかを選択 ①「科学と人間生活」と、以下の4つから1科目を選択(物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎) ②物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎のなかから3科目選択 |
| 出題範囲 | 中学卒業〜高校1年生修了までに学習する内容が中心。(一部例外あり) |
| 出題形式 | マークシート形式 |
| 合格率 | 約40%(全科目合格の場合) |
各科目の合格基準は公表されていませんが、例年40点前後が合格の目安とされています。
一度合格した科目は次回以降の受験が免除され、合格の有効期限もありません。
また、これまで高校や中等教育学校などに通っていた方や、英検や数検などの資格を持っている方は、試験科目の免除を受けられる場合があります。
詳しくは文部科学省のホームページを参照してください。
高卒認定の試験勉強は、独学で行う方もいますが、通信講座や予備校などで学ぶことも可能です。
高卒認定試験に合格後は、希望する指定保育士養成施設に入学し、施設の形態によって2〜4年通学し、卒業すれば保育士資格を取得できます。
保育士試験の合格を目指す場合
前述の通り、中卒で保育士試験の受験資格を得るには所定の施設で5年以上の実務経験が必要なため、就労と並行して試験勉強をするのが一般的です。
保育士試験の概要を以下にまとめました。
| 試験日程 | <2025年度 前期>・筆記試験4月19日、20日・実技試験6月29日 <2025年度 後期>・筆記試験10月18日、19日・実技試験12月7日 |
| 受講費用 | ・クレジットカード決済・・・13,054円・コンビニ決済・・・12,975円 |
| 試験科目 | <筆記試験>保育の心理学・保育原理・子ども家庭福祉・社会福祉・教育原理・社会的養護・子どもの保健・子どもの食と栄養・保育実習理論の全9科目 <実技試験>以下の3分野から2つを選択①音楽②造形③言語 |
| 出題範囲 | 全国保育士養成協議会 ホームページを参照 |
| 出題形式 | マークシート形式 |
| 合格基準 | <筆記試験>9科目すべてで6割以上得点する。 <実技試験>2分野ともに6割以上得点する。 ※筆記試験合格後に実技試験に進める。 |
| 合格率 | 20%~30%程度 |
保育士試験は筆記試験の科目数が多く、出題範囲も広いため、合格難易度は高卒認定試験と比較すると高めだと言えます。
筆記試験で一度合格した科目は3年間有効となり、高卒認定試験と異なり有効期限があることも頭に入れておきましょう。
代表的な勉強方法を、以下に紹介します。
- 書店で販売している問題集や全国保育士養成協議会ホームページにある「過去の試験問題」を解く
- 民間の通信講座を受講する
- 都道府県が主催する対策講座を受講する
これらのうち、過去の試験問題は無料で閲覧でき、都道府県が主催する対策講座も無料かつオンラインで受講できるものもあります。
ご自身が働きながら無理なく勉強できる方法を選びましょう。
中卒から指定保育士養成施設を卒業して保育士になるのがおすすめな人
- 試験のストレスを軽減したい人
- 短期間で資格を取得したい人
- 保育に必要な知識や技術を体系的に学びたい人
試験のストレスや試験勉強の負担を減らしたい方は、指定保育士養成施設卒業ルートが向いています。
短大や専門学校であれば最短2年で卒業できるため、短期間で資格を取得できるのもメリットです。
養成施設では提携している保育所や福祉施設での実習を通して実践的なスキルを学べるので、体系的に学び、専門性を高めたい方にもおすすめです。
中卒から保育士試験に合格して保育士になるのがおすすめな人
- すでに児童施設で働いている人
- 自分のペースで勉強したい人
- 資格取得にかかる費用を抑えたい人
すでに児童施設や受験資格の対象となる福祉施設で働いている方は、すき間時間で受験勉強することで、収入を維持しながら資格取得を目指せます。
保育士試験対策講座は、通信やオンラインで受講できるものも多いため、数年かかっても自分のペースで合格したい方にも向いていると言えるでしょう。
指定保育士養成施設の学費は学校によって異なりますが、私立大学の場合、1年あたり100万円前後の学費が必要とされています。
一方、保育士試験は書店で問題集を買ったり、無料の対策講座を受講したりすれば費用を抑えて勉強できる点がメリットです。
まとめ

中卒から保育士になる方法は「指定保育士養成施設を卒業する」「保育士試験に合格する」の2通りあります。
資格取得は決して簡単ではありませんが、コツコツ勉強を続ければ十分に可能です。
今回ご紹介した概要を参考にして、ご自身に合った方法で保育士を目指しましょう。
監修者:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士)


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