
福祉施設への就職を検討する中で「音楽で利用者に関わる方法はあるのか?」「好きな音楽を仕事に活かしたい」と思う人もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、さまざまな福祉施設で音楽を用いて利用者を支援する「音楽療法士」という職種をご紹介します。
音楽療法士とは
音楽療法士とは、音楽が人間の生理的・社会的・認知的な側面に作用する力を用いて、クライエントを多面的に支援する職種です。
2025年10月現在国家資格ではなく、複数の認定団体が存在する民間資格です。
音楽療法は非薬物療法の一種であり、これだけで疾患を治療できるものではありません。
一方で、クライエントとの楽器の演奏や音楽鑑賞を通じて、情緒の安定や生活の質を高める効果が期待できます。
認知症疾患診療ガイドラインにも、非薬物療法のひとつとして音楽療法が記載されており、不安や抑うつ症状などの緩和に効果があるとされています。
音楽療法士が活躍する場所
音楽は年齢や世代を問わず親しめるものであることから、音楽療法士が活躍できる場所も非常に幅広いです。
主な就業先を以下にまとめました。
| 就業分野 | 就業先 |
| 医療機関 | ・病院・リハビリテーション施設・診療所・訪問診療 など |
| 福祉施設 | ・児童福祉施設(放課後デイサービス・障がい児施設など)・高齢者施設(特別養護老人ホーム・デイサービスなど)・障がい者施設(通所または入所施設) |
| 教育機関 | ・特別支援学校・小学校の支援学級・幼稚園 など |
働き方次第でさまざまな年代のクライエントと関われる点も、音楽療法士の魅力のひとつと言えるでしょう。
音楽療法士の仕事内容
音楽療法士の主な仕事内容をまとめました。
アセスメントと治療計画
クライエントの心身の状態や現在の課題などを、本人やご家族、施設の職員やかかりつけ医などからヒアリングしたうえで治療計画を立てます。
また、音楽療法には個別セッションと集団セッションがあり、以下の違いがあります。
- 個別セッション・・・1人のクライエントと密接に関わることで、クライエントのその日の状態や目的に沿ったセッションを行える。
- 集団セッション・・・同じ施設や地域などで過ごす仲間と共に参加することで、協調性や社会性の向上をはかる。
セッションに参加する人数や人選なども、施設の職員などと一緒に検討するとトラブルの防止にもつながり安心です。
セッションの実施
あらかじめ立てた治療計画に基づき、セッションを実施します。
1回のセッション時間の目安は「個人セッションで30分・集団セッションで40〜60分程度」で、週1回や月2回など定期的に行います。
音楽療法は大きく分けて以下の2種類の活動があり、これらを組み合わせてセッションの構成を考えるのが一般的です。
- 受動的音楽療法・・・音楽を聴いて、心身のリラックスや情緒の安定を促す。
- 能動的音楽療法・・・楽器の演奏、歌唱、ダンスなどを通じて自己表現や感情の発散を促す。
また、事前に準備していたプログラムが予想以上に盛り上がったり、反対に思ったより早く飽きられてしまったりする場合があります。
予備のプログラムを用意しておく、ひとつのプログラムが盛り上がったらそれ以外の行程を調整するなど、臨機応変に対応できるよう準備しておきましょう。
セッションの記録と評価
セッション終了後はセッションの状況を記録し、治療計画で設定した目標を達成できているかを評価します。
セッションは、クライエントの同意を得た上でビデオ撮影を行うと、より正確にセッションを振り返ることができ、次回へ活かすことが可能です。
この時の評価やクライエントの状況の変化に基づき、治療計画やセッションの構成の見直しを行います。
地域への啓発活動、自己研鑽
音楽療法の存在や効果について多くの人に知ってもらうために、地域のイベントでワークショップや講演会などを開催することも仕事のひとつです。
介護施設や児童福祉施設が地域交流を目的に開催するお祭りやイベントで、皆が楽しめる音楽会を企画する場合もあります。
このような地域の小規模なイベントが人気を呼び、新たな仕事獲得に繋がるケースも少なくありません。
定期的に学会などが主催する勉強会に参加し、自身のスキル向上に努めることも大切です。
音楽療法以外の業務を行う場合もある
音楽療法士は常勤での募集が少ないため、介護士や児童指導員と音楽療法士を兼務する方も多いです。
その場合、入浴介助や送迎など、直接音楽療法に関係しない業務も行います。
業務が増えるのは負担に感じるかもしれませんが、クライエントと関わる時間も増えてより充実したアセスメントや評価ができるメリットもあります。
フリーランスの音楽療法士は、ピアノ講師や一般企業のアルバイト、ほかの施設施設などと掛け持ちして働く人もいます。
音楽療法士になるには
音楽療法は、理論上資格がなくても行えますが、高い専門性が必要なため民間資格を取得するのがおすすめです。
代表的な認定機関の資格取得方法を簡単に紹介します。
日本音楽療法学会の「認定音楽療法士」を目指す場合
- 高校卒業後、学会の認定を受けている大学・専門学校に入学し、必要なカリキュラムを修了する。認定校卒業見込み時に、(補)受験資格取得
- 音楽療法士(補)試験を受験
- 面接試験を受験
- 合格すると資格取得
なお、資格取得後は5年ごとに更新が必要です。
全国音楽療法士養成協議会の「音楽療法士専修・1種・2種」を目指す場合
概要を表にまとめました。
| 資格名称 | 取得方法 |
| 音楽療法士(専修) | 修士レベルで、当協議会の定める養成課程(専門教育科目)を91単位以上修めて大学院などを修了する。 |
| 音楽療法士(1種) | 学士レベルで、当協議会の定める養成課程を95単位以上修めて大学などを修了する。 |
| 音楽療法士(2種) | 短期大学士レベルで、当協議会の定める養成課程を53単位以上修めて短期大学などを修了する。 |
音楽療法士専修・1種・2種に関しては、2025年10月現在資格更新制度はありません。
音楽療法士に関するよくある質問
音楽療法士に関するよくある質問をまとめました。
音楽療法士の年収は?
音楽療法士の平均月収は約24万円、年収に換算するとおよそ280〜300万円程度とされています。
ただし、音楽療法士の正社員雇用が限られる現状があるため、複数の施設やほかの職種と掛け持ちしている場合はこの限りではありません。
音楽療法士は国家資格になる?
2023年に日本音楽療法学会で国家資格化に向けた議員連盟総会が開催されており、国家資格になる可能性はあります。
今後の動向に注目しましょう。
音楽療法士になるために必要なピアノのスキルは?
音楽療法士はピアニストではないので、必ずしもプロレベルの演奏スキルは必要ありません。
一方で、セッションで歌の伴奏をする機会が多いため、以下のスキルを身につけておくのが望ましいです。
- コード譜の楽譜を見ながら伴奏できる
- クライエントの歌いやすい音程に瞬時に移調して伴奏できる
- クライエントの年代に応じた流行りの曲を演奏できる
- ピアノで弾き語りできる
ピアノのほか、ギターでも上記のスキルを身につけておくと、クライエントの表情を見ながらセッションしやすくなります。
まとめ

音楽療法士は現在民間資格ですが、今後国家資格になる可能性もあります。
クライエントの心に直接働きかけられる音楽療法は、年齢や疾患問わず、あらゆる方の情緒の安定に寄与するものとされており、将来性の高い職種です。
音楽を福祉の仕事に活かしたいと考えている方は、音楽療法について学んでみてはいかがでしょうか。
監修者:中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士


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