
福祉や介護の仕事に従事している方の中には、「介護認定調査員がどのような資格なのかわからない」と思う方もいるのではないでしょうか。
介護認定調査員とは、要介護認定の一次判定に必要な調査をする者を言います。
本記事では、介護認定調査員の仕事内容や従事するための条件、向いている人などを解説します。
介護認定調査員とは
要介護認定の3段階(認定調査、一次判定、二次判定)のうち、初めの認定調査を担っているのが介護認定調査員です。
介護認定調査員は、申請者の住まいを訪問して聞き取り調査を行い、心身機能や生活機能、家族の状況や居住環境などを確認し、一次判定に必要な情報を集めます。
調査した情報は専用のソフトに入力され、コンピュータによる一次判定が行われます。
認定調査の結果はあくまで一次判定の材料として活用されるため、最終的な要介護度を決定するものではありません。
これは、申請者ごとに異なる固有の状況があり、調査員の聞き取りのみでは正確な判定が難しいからです。
そのため要介護度を決定するのは、保健・医療・福祉分野の有識者による介護認定審査会という組織になります。
一次判定の結果と、次に詳しく解説する特記事項、申請者の主治医が記載した意見書をもとに、二次判定として最終的な判定がなされます。
しかし認定調査が正確に行われなければ、介護認定審査会に正しい情報が伝わりません。
より正確な審査・判定が行われるためにも、介護認定調査員が行う調査と記録は大変重要と言えます。
介護認定調査員の仕事内容
介護認定調査員の仕事内容である認定調査は、以下の手順で行われます。
- 調査日時や場所の調整
- 聞き取り調査と調査票の作成
ここからは、仕事内容を手順ごとに見ていきましょう。
1.調査日時や場所の調整
まずは申請者や家族と連絡をとり、調査の日時と場所を決めます。
調査場所は申請者の自宅か、入院・入居中の場合はその施設となります。
調査では正確な情報を収集するために、申請者の普段の様子を把握している方に同席してもらうことが原則です。
自宅の場合は家族や介護者に、施設の場合はその職員に同席を求めます。
2.聞き取り調査と調査票の作成
調査日には申請者の自宅、もしくは施設を訪問し調査を行い、全国共通の項目にもとづいて調査票を作成します。
調査内容は、以下の3種類です。
- 概況調査
- 基本調査
- 特記事項
それぞれの内容について、以下で詳しく見ていきましょう。
出典:厚労省・要介護認定認定調査員テキスト2009改訂版(令和6年4月)
概況調査
概況調査では、調査対象者が利用しているサービスや家族の状況、住んでいる環境などについて聞き取り、下記の項目を記載します。
- 調査実施者:介護認定調査員の情報を記載
- 調査対象者:調査対象者の情報を記載
- 現在受けているサービスの状況:在宅もしくは施設で受けているサービスを記載
- 置かれている環境等:家族状況、住宅環境、傷病、既往歴などを記載
概況調査により、調査対象者の「生活全般における基本的な情報」を把握します。
基本調査
基本調査では、以下6つの各群(その他含む)から状況を聞き取り、調査票を記録します。
調査項目 | 目的 | 調査内容(主な内容を抜粋) |
1群:身体機能・起居動作 | 身体の機能や基本的な動作を評価 | 麻痺があるか関節の動きに制限があるか寝返りや起き上がりができるか立つ・座る・歩行ができるか洗身や爪切りは介助されているか視力や聴力の状態はどうか |
2群:生活機能 | 日常生活動作の機能や外出頻度を評価 | 移乗や移動は介助されているか飲み込みはできるか食事、排せつ、整容、着替えなどは介助されているか外出しているか |
3群:認知機能 | 記憶力や理解力、徘徊の有無などを評価 | 記憶や理解、意思の伝達などができるか徘徊があるか外出後に戻れないことがあるか |
4群:精神・行動障害 | 精神症状や行動障害などを評価 | 感情の不安定さや大声をあげること、介護抵抗などがあるか |
5群:社会生活への適応 | 社会生活を行う能力や、社会生活への適応力などを評価 | 薬の内服や金銭の管理、買い物などに介助が必要か日常の意思決定はできるか集団への不適応があるか |
その他:過去14日間に受けた特別な医療 | 過去14日間に受けた特別な医療の有無を確認 | 点滴の管理や酸素療法、経管栄養などの処置を受けたかモニター測定やじょくそうの処置、カテーテルの管理などを受けたか |
これらの調査から、対象者の「心身機能や生活機能、医療的処置の有無」などを把握します。
特記事項
基本調査だけでは伝えきれない情報を説明する際に記入する項目で、主に以下の内容を記録します。
- 介護の手間や頻度
- 介護する家族の状況や相談内容
- 調査員が判断に迷った際に選択した根拠や背景
特記事項は、基本調査の選択肢にない特殊な介護の状況を反映できるため、介護認定審査会へ伝えておきたい情報を記載できる重要な部分です。
たとえば基本調査の「移乗」が全介助の方でも、体格が大きい方では複数の介助者が必要となり、「通常の全介助」よりも介護負担が生じるかもしれません。
一方で体格の小さな方であれば、全介助であっても介助者が一人で行える場合もあるでしょう。
このように、基本調査の選択肢だけでは表現できない具体的な状況を記録することで、より実態に合った情報を介護認定審査会に伝えられます。
介護認定調査員の仕事に従事できる人
認定調査は原則として市町村の職員が行いますが、以下に該当する人も従事できます。
- 指定居宅介護支援事業者や介護施設の介護支援専門員
- 指定市町村事務受託法人の介護支援専門員と、保健・医療・福祉に関する専門的な資格をもつ者
【専門的な資格】
医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、歯科衛生士、栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士、視能訓練士、義肢装具士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
なお、上記の専門的な資格をもつ者が従事するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 介護実務に5年以上従事、もしくは認定調査業務に過去1年以上従事していること
- 都道府県等が実施する認定調査員研修、委託元の市町村が実施する研修を修了していること
介護認定調査員は、市区町村職員か介護支援専門員に限られていましたが、特定の資格者も従事できるようになったため、調査を実施できる人の幅が広がりました。
高齢化が進み、介護保険を利用する方も増えるため、介護認定調査員の需要は高いと考えられます。
介護認定調査員の給料
介護認定調査員の給料には、月額や時給制、一件あたりの調査委託料などさまざまな報酬形態があります。
給料の相場は以下のとおりです。
- 月額:20~21万円
- 時給:1,100~2,000円
- 一件あたりの委託料:4,000~5,000円
自治体の募集要項によって雇用形態や報酬形態が異なるため、従事したい場合は、自身のライフスタイルや金銭面の条件に合致する場所を選びましょう。
介護認定調査員に向いている人
介護認定調査員の仕事に興味があっても「自分には向いているだろうか」と思う方もいるでしょう。
以下では、介護認定調査員の適性を解説します。
コミュニケーションスキルに優れている人
認定調査では、調査対象者に難聴や認知症などがある場合、質問がスムーズに伝わらないこともあります。
そのため、相手の状況を理解し、適切なことばや表現を選べるコミュニケーションスキルがある人に向いています。
情報の整理に長けている人
情報を整理し、要点を把握できる能力が求められます。
調査対象者の話が長くなり論点がずれてしまい、どの情報が重要なのかわかりにくい場合でも、話の要点を簡潔にまとめて記録できるとよいでしょう。
観察力が鋭い人
調査対象者が話す内容だけでなく、表情や動作などからも状況を把握できる観察力が求められます。
たとえば、対象者が転んでいることを隠して「問題ない」と言っていても、話しながら視線をそらしたり、身体が痛そうな素振りをしたりする場合もあります。
こうした細かい違和感にも気づける人は、介護認定調査員に向いているでしょう。
まとめ

介護認定調査員は、要介護認定の一次判定に関わる重要な役割を担っています。
正確な情報収集のために、高いコミュニケーションスキルや観察力などが求められます。
高齢化により介護保険の利用者は増えると予測されるため、介護認定調査員の仕事は今後も必要とされるでしょう。
介護保険制度の運営の一部を担ってみたいと思う方は、介護認定調査員を目指してみてはいかがでしょうか。
監修者:中谷ミホ
ケアマネジャー、社会福祉士、介護福祉士、保育士
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