
言語聴覚士は、コミュニケーションや食事が円滑に行えるように支援するリハビリ専門職です。
理学療法士や作業療法士よりもその名を聞く機会が少ないため、「どのような資格なのかわからない」という方もいるのではないでしょうか。
今回は、言語聴覚士の仕事内容や資格の取り方、就職先について解説します。
言語聴覚士とは?
言語聴覚士とは、話す・聞くなどのコミュニケーションや、摂食・嚥下(食べて飲み込むこと)などの機能に障がいがある方を対象に、リハビリを行う専門職です。
コミュニケーションや摂食・嚥下の機能は、日常生活を送る上で欠かせないものです。しかし、病気やけが、加齢によって障がいが生じると、周囲とのコミュニケーションが難しくなったり、食事を楽しめなくなったりするなど、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。
言語聴覚士は、そのような方々が自分の思いを伝えたり、安心して食事を楽しめるように、専門的な支援を行います。
言語聴覚士の仕事内容と対象者
言語聴覚士の主な仕事内容は、以下の5つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
ことばのリハビリ
脳梗塞や脳出血などの脳の病気、交通事故、認知症などによって、ことばが不自由になった方へのリハビリを行います。
ことばの障がいは、以下の「失語症」と「構音障がい」に大きく分けられます。
特徴 | 支援内容 | |
失語症 | 舌や口、耳の機能に問題はないが、脳の障がいによってことばで表現できない、聞いたことが理解できない、文字が書けない、読めないなどの症状脳の障がい部位によって、症状の出方が異なる | ・個々の症状に合わせた、発声や読み書きの練習・絵やイラストを用いた代替的な手段の獲得、ジェスチャーなどの練習 |
構音障がい | 舌や口、のどなどの音を作り出して正確に発声する器官の障がいにより、うまく話せない状態 | ・発声、発音、呼吸などの練習、口の体操・文字盤や音声盤などの導入 |
ことばの障がいは、気持ちの落ち込みや他者とのコミュニケーション機会の減少につながります。
そのため、言語聴覚士には、対象者の精神的な苦痛に寄り添いながら慎重にリハビリを進めていく姿が求められます。
摂食・嚥下のリハビリ
そしゃくする、飲み込むなどの機能を回復させるリハビリです。病気やけがで全身の機能が衰えると、食べる力も低下してしまいます。
そのため、言語聴覚士は、以下のように多職種で役割を分担し、摂食・嚥下機能の改善を目指します。
- 言語聴覚士:そしゃくや飲み込みの練習、食べやすい形状の検討などをする
- 理学療法士:食事に必要な体力、筋力をつける
- 作業療法士:食べやすい食器の選定や、道具を使う練習をする
単なる栄養の摂取ではなく、「楽しい食卓」になるような支援が大切です。
認知機能のリハビリ
脳の病気や認知症などによって、記憶力・判断力・理解力・注意力などの認知機能が低下した方に対して、これらの機能を回復または維持させるためのリハビリです。
たとえば、記憶力が低下している方が、物事を思い出す練習をする場合、言語聴覚士は難易度を調整して支援します。対象者が無理なく取り組めるよう工夫し、コミュニケーションを通じてサポートするのが特徴です。
また、日常生活に困らないように環境設定を行うのも言語聴覚士の重要な役割です。記憶力や注意力に課題がある方には、メモやふせんを活用して、物の置き場所をわかりやすくしたり、予定を管理しやすくする工夫を行います。こうしたサポートにより、日常生活がよりスムーズに送れるよう支援しています。
聴覚のリハビリ
聴覚のリハビリは、生まれつき聴こえに不自由がある方や、加齢による難聴、病気や事故で聞こえなくなった方などが対象です。
補聴器や人工内耳(手術で耳の中に埋め込んだ音を伝える装置)の調整、音の聞き分けや発音の練習などを行います。
小児のリハビリ
ことばの発達の遅れや吃音(なめらかに話せない)などに対する、コミュニケーション全般を支援します。
正しい発声のしかた、場面に応じたことばの選び方などを、遊びや絵カードを用いてサポートします。
また、家族や学校などへのアドバイスや、支援環境の調整も言語聴覚士の役割の一つです。
言語聴覚士になるには?資格の取得方法
言語聴覚士になるには、以下いずれかのルートで所定のカリキュラムを修め、国家試験に合格する必要があります。
- 4年制大学、3年制短期大学、3〜4年制専修学校のいずれかに通う
- 一般の4年制大学を卒業後、指定の大学や大学院の専攻科、もしくは2年制の専修学校に通う
- 大学等で言語聴覚士に関連する科目を履修したのち、指定された学校に1年間通う

言語聴覚士の国家試験の合格率は、過去5年を平均すると約70%ですが、養成校によって大きな差が見られます。
そのため、国家試験に合格するには、どの養成校を選ぶかが大切なポイントとなります。各学校の合格率を調べて、自分の目標達成に最も適した環境を選びましょう。
言語聴覚士の就職先
言語聴覚士は、幅広い分野で活躍することができます。主な就職先を以下で紹介します。
医療機関
大学病院や総合病院といった大規模な医療機関から、一般病院、リハビリテーション病院、クリニックまで、様々な医療機関で活躍しています。
病院の規模や所属する診療科によって、対応する病気や障がいの種類は異なるため、幅広い分野の経験を積みたい方は、医療機関への就職がおすすめです。
介護施設
介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどの介護施設では、言語聴覚士の需要が高まっています。介護施設での主な支援は、高齢者の摂食・嚥下障がいに対するリハビリです。
高齢者は、加齢や病気の影響で、そしゃくや嚥下の機能が低下しやすく、誤嚥(気管に食物が入ること)が原因で肺炎や窒息のリスクが高まる場合があります。
言語聴覚士は、入居者が安全に食事を楽しめるよう、多職種と連携しながら、食事の支援や口腔機能の改善、食事環境の調整を行い、入居者の生活の質(QOL)向上を目指します。
在宅ケア
在宅ケアでは、主に訪問看護ステーションや訪問リハビリの事業所に所属して働きます。
利用者の自宅を訪問し、食事面やことばのリハビリなど生活に密着したリハビリを行うのが主な業務です。また、家族に対して、アドバイスや指導を行い、良好なコミュニケーションを築くことも大切な役割です。
さらに、訪問介護やデイサービスを利用する方も多いため、他の事業所と連携しながら、利用者が自宅で安全に会話や食事を楽しめるよう多方面から支援します。
高齢化の進行と地域医療の推進に伴い、在宅ケアにおける言語聴覚士の需要は今後さらに高まると予測されます。
小児関連の施設
特別支援学校や放課後等デイサービス、療育センターなど、小児関連の施設でも活躍の場があります。
個々の子どもの発達特性に合わせて、意思決定や問題解決能力、対人関係スキルなどの習得を支援します。
また、子どもだけでなく、その家族への支援も欠かせません。家族や学校とも密に連絡を取り合い、子どもの成長を幅広くサポートします。
養成校の教員
言語聴覚士として現場での臨床経験を積んだ後に、養成校の教員として働くことも可能です。
主な仕事内容は次のとおりです。
- 学生への講義
- 就職相談
- 国家試験対策
- 学校行事の運営
- 研究活動など
「自身の経験を伝えたい」「後任を育成したい」といった希望がある方に向いています。
言語聴覚士の将来性
言語聴覚士の将来性は、非常に明るいと言えるでしょう。
超高齢化社会を迎えた日本では、高齢者の増加に伴い、脳卒中や認知症など、言語やコミュニケーションに困難を抱える方が増えています。
このような方々に対して、言語聴覚士は、食事や会話の訓練など、専門的なリハビリテーションを提供し、生活の質の向上に貢献します。
また、言語聴覚士が活躍できる場は、医療機関や介護施設にとどまらず、在宅介護や療育の現場にも広がりをみせています。
このように、言語聴覚士は、医療・福祉の分野において、人々の生活を支える重要な役割を担っており、今後もその需要はますます高まっていくでしょう。
言語聴覚士に向いている人
次に「言語聴覚士の仕事は自分に向いているだろうか」と疑問に思う方のために、向いている人の特徴を紹介します。
コミュニケーション能力が高い
言語聴覚士は、ことばの障がいを持つ方と接する機会が多い仕事です。そのため、相手の話に耳を傾けたり、表情やジェスチャーなどの非言語的なサインから気持ちを汲み取ったりすることが得意な人に向いています。
相手が伝えたいことを理解し、それに応じたサポートを提供する中で、信頼関係を築いていく力が必要とされます。
長期的に支援できる根気強さがある
言語聴覚士には、対象者と長期にわたって関わり続ける姿勢が求められます。
たとえば、失語症の方の支援では、脳の病気を発症した直後は症状の改善が見られやすいものの、数ヶ月が経つと回復のペースが遅くなる傾向があります。そのため、長い時間をかけて根気強く支え続ける必要があります。
このように、目に見える変化が少ない状況でも、支援を続けられる根気強さを持つ方に言語聴覚士の仕事は向いているといえます。
協調性がある
言語聴覚士は、多職種と連携しながら支援にあたるため、他の人と協力して働くことが得意な人に向いています。
医師や看護師、理学療法士、栄養士など、多くの専門職が関わるリハビリテーションでは、それぞれが役割を果たしながら相互に協力することが欠かせません。言語聴覚士も、チームの一員として、他職種と情報を共有しながら支援を行います。
そのため、他の職種と連携しながら働くことが苦にならない人が言語聴覚士に向いているといえるでしょう。
まとめ

言語聴覚士の資格は、コミュニケーションや食事などを支援するリハビリ専門職のひとつです。小児から高齢者まで対象者は多く、活躍できる場所もさまざまです。
超高齢社会を迎える我が国において、今後も活躍が期待できる将来性のある資格と言えるでしょう。言語聴覚士の仕事に興味をもった方は、ぜひチャレンジしてみてください。
監修者:中谷ミホ
社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士
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