
「最終学歴が中卒でも理学療法士になれる?」
このような疑問をもつ方もいるのではないでしょうか。
実は、中卒からでも理学療法士を目指すことは可能です。
ただし、資格を取るまでにはいくつかの段階があり、働きながら進むには計画的な準備が必要です。
今回は、すでに社会に出て働いている中卒の方が理学療法士になるための4つのステップと、押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
中卒から理学療法士になるための4つのステップ
前提として、理学療法士の資格は独学での取得ができません。
養成校でカリキュラムを履修し、国家試験に合格する必要があります。
ただし、中卒の方は養成校の受験資格がそもそもないため、「高校を卒業する」または「高卒認定試験(旧・大検)に合格する」のいずれかの条件を満たさなければなりません。
まずは、中卒から理学療法士を目指せるように、必要な4つのステップを順に解説します。
ステップ1.高校を卒業するか高卒認定試験に合格する
理学療法士の養成校を受験するには、「高等学校を卒業していること(卒業見込み含む)」または「高等学校卒業と同等以上の学力があると認められること」が条件となります。
このうち、「同等以上の学力」を証明する手段として用いられるのが、高卒認定試験です。
高校に通って卒業する方法もありますが、全日制・定時制・通信制のいずれを選んでも、卒業までに最低3年はかかります。
そのため早く理学療法士を目指したい方にとっては、高卒認定試験を受けるほうが資格取得までの期間を短縮できる場合が多いでしょう。
【高卒認定試験の概要】
項目 | 内容 |
---|---|
実施日 | 年2回(8月・11月) |
受験科目 | 必修:国語、地理、歴史、公共、数学、英語選択:理科(2~3科目を選択)合計8~9科目を受験 |
合格点 | 各教科で40点以上が目安(100点満点中) |
合格率 | 40~50% |
試験では、すべての科目に一度で合格する必要はありません。
最終的に必修6科目と、選択2~3科目に合格すれば認定されるため、働きながらでも自分のペースで取り組めます。
ステップ2.理学療法士の養成校へ入学する
高卒認定試験に合格したら、次は理学療法士の養成校への入学を目指します。
入学試験の内容は学校ごとに異なり、筆記試験のほか、面接や小論文が課されることもあります。
そのため、志望校の募集要項を事前によく確認し、試験内容に合わせた対策を立てておくことが大切です。
特に面接や小論文では、「なぜ理学療法士になりたいのか」「どのように患者さんを支援していきたいのか」といった、あなた自身の動機や思いを具体的に伝えられるように準備しておきましょう。
ステップ3.カリキュラムを履修する
養成校に入学すると、3~4年かけてカリキュラムを履修します。
学習内容は、解剖学・生理学・運動学などの基礎分野から、理学療法に関する専門分野まで多岐にわたり、幅広い知識の習得が欠かせません。
校内では、検査・測定・治療技術などの実技試験が行われ、臨床実習では実際の患者さんに対して評価や治療を実施します。
このように学習量は非常に多く、継続して学ぶ姿勢が求められます。
特に臨床実習は医療現場で行われるため、専門技術だけでなく、接遇スキルや医療人としての倫理観の習得も欠かせません。
こうしたカリキュラムを通じて、理学療法士に必要な知識と技術を段階的に身につけていきます。
ステップ4.国家試験に合格する
養成校でのカリキュラム修了後、国家試験に合格することで理学療法士の資格を取得できます。
【国家試験の概要】
項目 | 内容 |
---|---|
実施時期 | 毎年1回、2月に実施 |
試験構成 | 理学療法士の専門問題:100問(うち実地問題40問)理学療法士・作業療法士共通問題:100問 |
合格率 | 約80~90% |
国家試験に合格するには、養成校で学んだ幅広い知識をしっかりと復習し、確実に身につけておく必要があります。
合格率は高い試験ですが、出題範囲は膨大なため計画的に勉強を進めましょう。
中卒から理学療法士になるために押さえたい4つのポイント
中卒から理学療法士を目指す場合、養成校の入学試験対策や入学後の学習以前に、高卒認定試験の対策も必要なため、長期的な学習が前提となります。
また、すでに社会人として働いている方の場合、通学にあたって職場の理解や調整が必要になることもあるでしょう。
ここからは、中卒から理学療法士を目指すうえで押さえておきたい4つのポイントを紹介します。
ポイント1.勉強する習慣をつける
中卒で早くに社会人になった方のなかには、「勉強が苦手だ」「何から始めればいいかわからない」と不安を感じる方もいるでしょう。
繰り返しになりますが、理学療法士を目指すには、まず高卒認定試験に合格する必要があります。
働きながら勉強を進める場合は、意識的に学習時間を確保することが大切です。
最初は1日10〜20分でもかまいません。
無理のない範囲で、毎日机に向かう習慣をつけることから始めましょう。
とはいえ、独学ではつまずきやすい部分もありますし、効率のよい勉強方法がわからずに悩むこともあるかもしれません。
そのような場合は、学習塾やオンライン講座の利用もおすすめです。
自分の得意・不得意を把握しやすくなり、ポイントを押さえて学習できるため、効率的に力を伸ばしていけます。
こうして身につけた勉強の習慣は、高卒認定試験だけでなく、その後の養成校での学習にも役立ちます。
ポイント2.職場の理解を得る必要がある
すでに社会人として働いている方の場合、夜間部がある学校でなければ通学が難しいケースもあります。
夜間部の授業は多くが18時ごろから始まるため、残業の多い職場では間に合わない可能性も出てきます。
そのため、あらかじめ上司や同僚に相談し、職場に理解と協力を得ておくことが大切です。
特に注意したいのが、臨床実習の期間です。
実習は昼間に行われ、最終学年には6~9週間の実習が、2~3回にわたって実施されます。
この期間は日中の勤務ができなくなるため、休職を検討する必要があるほか、場合によっては退職せざるを得ないケースもあります。
こうした事情を踏まえ、入学前から職場と十分に話し合い、スケジュールの見通しを立てておきましょう。
ポイント3.自分の状況に合った学校を選ぶ
養成校を選ぶ際、試験の内容 ・学費・通学のしやすさなどを総合的に比較し、自分の状況に最も適した学校を選びましょう。
偏差値や倍率が比較的低い学校を選べば、合格の可能性は高まります。
学習期間や費用の面では、3年制の専門学校のほうが4年制大学よりも早く現場に出られ、学費も抑えられるメリットがあります。
一方で4年制大学では、医療以外の幅広い教養科目を学んだり、ゼミ活動をとおして学びを深めたりもできるため、柔軟な思考力や多角的な視点も身につくでしょう。
状況によっては、入学前に退職して4年制大学へ進学するという選択肢もありますので、自分の状況を確認しながら将来の方向性に合う学校を選びましょう。
ポイント4.給付金・奨学金などの支援制度を活用する
経済的な不安がある場合は、給付金や奨学金などの支援制度を積極的に活用しましょう。
たとえば専門実践教育訓練給付制度という、社会人を対象とした雇用保険の制度があります。
これは、厚生労働大臣が指定する養成校を卒業した場合に、入学金や授業料の一部が給付金として支給される仕組みです。
実際に、ある専門学校(夜間部・4年課程)では、総額約400万円の学費に対して、最大で約160万円が支給されるケースもあります。
また、学校によっては返還が免除される独自の奨学金制度を設けている場合もあります。
卒業後に、指定された医療機関などで一定期間勤務することを条件に、貸与された奨学金の返還が不要になる制度です。
こうした支援制度を上手に活用すれば、経済的な負担を大幅に軽減しながら、安心して学習に集中できるでしょう。
まとめ

中卒から理学療法士を目指すには、まず高校を卒業するか、高卒認定試験に合格して受験資格を得る必要があります。
そして養成校への進学、国家試験の合格など、資格取得までの道のりは決して楽ではありません。
特に働きながら目指す場合には、学習時間の確保や職場の理解などの課題もあります。
それでも、「医療や福祉の現場で働きたい」「誰かの役に立ちたい」という思いがあるなら、その気持ちはきっと本物です。理学療法士として働く自分の姿を思い浮かべながら、一歩ずつ資格取得に向けて進んでいきましょう。
監修者:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士)
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