福祉に関する仕事に興味がある方の中には、「作業療法士とはどのような資格なのだろうか?」と疑問をもつ方もいるのではないでしょうか。
作業療法士は、心身に障がいがある方に対し、作業を通じて社会復帰を支援する専門職です。
本記事では、作業療法士の仕事内容、資格の取得方法、活躍できる場所などについて詳しく解説します。
作業療法士の仕事に興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
作業療法士とはどのような資格?
作業療法士は、心身に障がいがある方や、障がいの予測される方が社会復帰できるよう支援するリハビリテーションの専門職です。
主に「作業」を通じて対象者と関わりますが、ここで言う作業とは、生活に関わるあらゆる行為を指します。
たとえば、食事や入浴、排泄などの日常生活動作や、外出や家事、仕事などの社会活動もすべて作業に含まれます。
これらの作業を通じて対象者に寄り添い、その人らしい生活の実現をサポートするのが、作業療法士の役割です。
作業療法士の仕事内容
作業療法士の仕事内容は、主に以下の3種類に分けられます。
- 基本的動作能力の回復
- 応用的動作能力の回復
- 社会適応能力の回復
それぞれの仕事内容を見ていきましょう。
基本的動作能力の回復
基本的動作能力とは、手足を動かすための筋力や、関節の動きなどの身体機能、起き上がりや立ち上がり、歩行などの生活に必要な動作のことです。
たとえば、脳卒中の後遺症で半身麻痺がある方に、手足の動きや歩行能力を改善するための運動を行います。
応用的動作能力の回復
応用的動作は、基本的動作を組み合わせて行うもので、次のような行為を指します。
- 食事
- 入浴
- 着替え
- 排泄
- 整容
- 家事など
たとえば排泄では、ズボンの上げ下ろしや清拭、水洗レバーの操作、手洗いといった複数の基本的動作が組み合わされています。
これらの動作が円滑に行えるよう、動作の指導や環境整備を行ったり、介護者への介助方法のアドバイスをしたりすることも作業療法士の仕事です。
社会適応能力の回復
作業療法士は、対象者が社会に適応できるように支援します。
主な内容は次のとおりです。
- 外出の練習(買い物、各種手続きなど)
- 就学・就労の支援(仕事に必要なスキルの習得、職場でのコミュニケーションなど)
- 療育(遊びや学習を通じた発達支援、環境整備など)
たとえば認知症の症状で不安や興奮が見られる方には、手工芸や書道、絵画などの作業や、コミュニケーションを取り入れた支援を行います。
これにより心の安定を図り、外出や趣味などの社会活動につなげていきます。
作業療法士の資格取得方法
作業療法士の資格を取得するためには、養成校で所定のカリキュラムを履修し、国家試験に合格する必要があります。
養成校で学ぶ
作業療法士の養成校には専門学校(3年制もしくは4年制)、3年制の短期大学、大学があり、それぞれ以下のカリキュラムを履修します。
- 基礎分野:科学的思考、人間と生活、社会の理解など
- 専門基礎分野:人体・病気の知識、リハビリテーションの理念など
- 専門分野:作業療法の基礎、作業療法管理、評価・治療など
- 臨床実習:実際の臨床現場での学習
早く資格を取得したい人は3年制、じっくりと学びたい人には4年制をおすすめします。
夜間部を設置する学校もあるため、働きながら学ぶことも可能です。
ただし、作業療法士の養成校には通信課程がないため、通学が必要である点は押さえておきましょう。
3年制の特徴 | 4年制の特徴 |
早く資格を取得できる4年制よりも学費が安い集中的に専門分野を学べる | 国家試験対策に時間をかけて取り組める一般教養科目も学べる大学院へ進学できる |
国家試験に合格する
所定のカリキュラムを履修し、国家試験に合格すれば作業療法士の資格を取得できます。
試験の内容や難易度は、以下のとおりです。
【内容】
- 作業療法士・理学療法士の共通問題:100問
- 作業療法士の専門問題:100問
人体の構造や仕組み、病気やリハビリテーションに関すること、作業療法の専門分野に関することなどから出題されます。
【合格率】
試験の合格率は、2020~2024年の5年間では80~87%程度で推移しています。
養成校で学んだことの復習や、過去問などの学習が大切です。
作業療法士が活躍できる場所
作業療法士の資格取得後は、どのような場所で活躍できるのでしょうか。
以下で詳しく見ていきましょう。
医療機関
一般病院や総合病院、診療所や精神科病院などに勤務し、入院・外来患者に対するリハビリテーションを行います。
とくに精神科病院では、精神症状や認知症などにより、社会生活が困難になっている方を対象に支援します。
作業療法士の勤務先としてもっとも多いのが、医療機関です。
介護保険関連の施設
介護保険に関連する施設は、次のとおりです。
- 介護老人保健施設や特別養護老人ホームなどの入所施設
- デイサービスや通所リハビリテーションなどの通所施設
入所施設では、認知症や身体に障がいのある方を対象に、自宅復帰を目指したリハビリテーションや、施設内での自立した生活を支援します。
通所施設では、自宅で自立した生活を継続できるよう、家の環境に合わせたリハビリテーションを提供します。
在宅
訪問看護ステーションや訪問リハビリでは、対象者の自宅に訪問してリハビリテーションを提供します。
主な役割は、排泄や家事などの日常生活動作の回復や、外出・社会貢献などの社会参加を支援することです。
障がい者施設
障がい者施設では、利用者の自立した生活のサポートや、就労支援などが主な役割です。
たとえば就労支援では、仕事に必要な技能の習得や、コミュニケーションの練習、働きやすい環境調整の提案など、幅広い専門的な支援が求められます。
児童福祉施設・特別支援学校
さまざまな特性をもつ子どもの能力を見極め、遊びや学習を通じて、心身の発達をサポートします。
また、家庭や学校からの相談に応じて、支援方法のアドバイスを行うことも、作業療法士の重要な仕事です。
作業療法士の養成校
養成校の教員として働くこともできます。
教員としての仕事内容は以下のとおりです。
- 学生への講義
- 就職相談
- 研究活動
- 国家試験の対策など
後進の育成に携わることで臨床とは異なるやりがいを感じる人もいます。
教員になるためには、5年以上の臨床経験や、特定の講習会の修了が必要です。
作業療法士の将来性は?
作業療法士の将来性は明るいと考えられます。
理由としては、日本の高齢化が進む中で、作業療法士の需要が今後も増え続けると予想されるからです。
とくに、作業療法士が関わる対象者には認知症の方も多く、専門的な知識と技術は今後も必要とされるでしょう。
一方で、厚生労働省の「理学療法士・作業療法士の需給推計」によると、2040年には作業療法士の供給数が需要を約1.5倍上回ると試算されています。
そのため、「作業療法士は飽和状態になるのではないか」「作業療法士はやめておくほうがいい」といった、不安の声も一部であがっているようです。
しかし、高齢化によってリハビリテーションの需要はさらに増加し、とくに認知症などの専門分野では、作業療法士の役割はますます重要となります。
供給が増加しても、作業療法士の専門的な知識とスキルは引き続き必要とされるため、将来性について過度に心配する必要はないでしょう。
作業療法士に向いている人は?
作業療法士の仕事に興味をもっていても、「自分に向いているのだろうか?」と感じる方もいるでしょう。
ここでは、作業療法士に向いている人の特徴を紹介します。
コミュニケーションが得意な人
作業療法士は、対象者の心理的・精神的な側面に寄り添いながら支援する専門職です。
信頼関係を築き、リハビリテーションを効果的に進めるためには、コミュニケーション能力が欠かせません。
そのため、コミュニケーションが得意で、相手の気もちを理解して寄り添える人は作業療法士に向いているでしょう。
細かな変化に気づける人
相手の細かな変化に気づけることも大切です。
対象者の中には心身に不調があっても、はっきりと言わない方もいるからです。
そのため、作業療法士は声のトーンや表情から相手の変化を感じ取り、声のかけ方に気を配ったり、作業内容を変更したりする必要があります。
このように細かな変化に気づき、適切な声かけや対応ができる人は、作業療法士に向いています。
探究心をもって仕事に取り組める人
リハビリテーションの知識や技術は、日々進化しています。
作業療法士として成長していくためには、常に新しい情報に目を向け、知識と技術を磨き続ける姿勢が求められます。
探究心をもって自己研鑽に励むことができる人は、より高いレベルで作業療法士として活躍できるでしょう。
まとめ
作業療法士は、リハビリテーションを通じて心身の回復を支援する専門職であり、その活躍の場は多岐にわたります。
高齢化が進む中で、今後も作業療法士の需要は増えると考えられ、将来性のある職業と言えるでしょう。
この仕事に興味をもった方は、作業療法士の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
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