
介護の現場において「リハビリ」と「機能訓練」ということばを耳にする機会は多いものの、両者の違いを明確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。
今回は、リハビリと機能訓練の定義を確認したうえで、介護保険制度における具体的な違いを整理します。利用者・家族への説明や、介護記録の作成にぜひ役立ててください。
リハビリの定義
リハビリとは「リハビリテーション」の略称であり、病気や障害のある方が自分らしく生活でき、社会的な役割をもてるように支援する取り組みを指します。
リハビリの目的は、単なる身体機能の回復にとどまりません。
- どのような生活を送りたいのか
- どのような形で社会と関わりたいのか
こうした考え方に基づき、大きく次の5つに分類されます。
| 分類 | 内容・特徴 |
|---|---|
| 医学的リハビリテーション | 理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)などの専門職が関わり、心身機能の維持・向上を目指す取り組み一般的に広く「リハビリ」として認知されているもの |
| 職業リハビリテーション | 障害のある方が仕事に就き、働き続けるための支援職業訓練や就労支援、職場環境の調整などを通じて、「働く」という社会参加の実現が目的 |
| 社会リハビリテーション | 個人の社会参加を支えるとともに、障害を生む社会的な壁にも働きかけ、その人らしく暮らせる環境を整える取り組み |
| 教育リハビリテーション | 障害のある方が学びを通じて能力を伸ばし、自己実現できるための支援生涯にわたって学び続けられるように支える取り組み |
| リハビリテーション工学 | 福祉用具や義肢装具、住宅改修、バリアフリー化など、道具や環境の工夫による支援 |
このように、リハビリは社会参加の促進や生活環境の整備まで含む、包括的な概念とされています。
機能訓練の定義
機能訓練には、リハビリのように明確な定義が定められていません。
心身機能の維持・向上を目的とした訓練を指すことが多く、この点では医学的リハビリテーションと共通する部分があります。
概念的には、機能訓練はリハビリという大きな枠組みの中の一要素としてとらえるのが自然です。
ただし、介護保険制度においては異なる位置づけとなっています。
介護の現場におけるリハビリと機能訓練の違い
介護保険制度においては、リハビリと機能訓練にはさまざまな違いがあります。
しかし実際の介護現場では、機能訓練のことを「リハビリ」と呼んでいるケースが少なくありません。
リハビリが「筋トレ」や「運動」といったイメージで広く浸透している一方で、「機能訓練」ということばには馴染みが薄いことが、混同される理由と考えられます。
両者の違いを正しく理解できると、利用者・家族への説明や介護記録がよりスムーズになります。
ここからは、具体的な違いを複数の項目からみていきましょう。
目的
【リハビリの目的】
リハビリは、要介護状態になった場合でも、利用者がもつ能力に応じて自立した日常生活を営めるように、心身機能の維持・回復を図ることを目的としています。
利用者本人の心身機能に直接働きかけ「本人の機能をどう高めるか」に焦点を当てた関わりが特徴です。
たとえば、脳卒中の後遺症で麻痺がある方の手足の機能回復を促したり、着替えや食事などの日常生活動作の能力向上を図ったりします。
【機能訓練の目的】
機能訓練は、利用者の社会的孤立感の解消や心身機能の維持、家族の身体的・精神的負担の軽減などを目的としています。
心身機能の維持という点ではリハビリと共通していますが、社会とのつながりを保つこと、他者との関わりを継続すること、家族の負担軽減にまで配慮している点が特徴です。
たとえば、集団での体操やレクリエーション活動を通じて身体機能の維持を図りつつ、他の利用者との交流の場を提供し、孤立感を和らげます。
同時に、家族が介護から一時的に離れてリフレッシュする時間も確保できます。
このように「本人とその周りの環境や関係性全体をより良くする」ことを目指している点が、リハビリとの違いです。
医師の指示
【リハビリは医師の指示が必要】
リハビリは、医師の指示が必要とされています。
医学的な根拠に基づいた専門的な介入であり、利用者の病状や身体状況を評価したうえで、適切なプログラムを組み立てる必要があるためです。
医師は利用者を診察し、どの程度の負荷をかけてよいか、禁忌事項(行ってはいけないこと)は何かなどを判断し、実施者に具体的な指示を出します。
リハビリを提供するサービスには、以下のようなものがあります。
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 訪問リハビリテーション
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護医療院
いずれのサービスも、医学的な管理のもとで実施されることが前提です。
【機能訓練は医師の指示が不要】
機能訓練は医療行為ではなく、身体機能の維持や社会参加の促進を目的とした支援と位置づけられているため、医師の指示は不要です。
機能訓練を提供する代表的なサービスには、以下のようなものがあります。
- 通所介護(デイサービス)
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム)
これらの事業所では、後述する機能訓練指導員による訓練が行われます。
実施者
【リハビリの実施者】
リハビリを実施できるのは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)といった国家資格保持者に限定されています。
これらの専門職は、人体の構造や機能、疾患に関する知識、機能回復のための技術を体系的に学んでおり、個別のリハビリテーション計画を立案して実施します。
【機能訓練の実施者】
機能訓練を実施するのは、機能訓練指導員と呼ばれる以下の資格保持者です。
- 理学療法士(PT)
- ・作業療法士(OT)
- ・言語聴覚士(ST)
- 看護師・准看護師
- 柔道整復師
- あん摩マッサージ指圧師
- はり師・きゅう師
リハビリに比べて実施者の範囲が広く、専門性を活かして利用者を支援します。
なお、介護職員は機能訓練指導員ではありませんが、日常的な関わりの中で機能訓練の実施が可能です。
起き上がりの際に利用者自身の力を使うように促したり、行事での活動を通じて心身の活性化を図ったりすることも、機能訓練の一環です。
参考:社保審-介護給付費分科会 第153回(H29.11.29)
実施内容
【リハビリの実施内容】
リハビリでは、以下のような医学的根拠に基づいた専門的な治療が行われます。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 理学療法(PT) | 関節可動域訓練、筋力増強訓練、痛みの軽減などを行う起き上がり、立ち上がり、歩行といった基本的な動作能力の回復を目指す |
| 作業療法(OT) | 食事、着替え、排泄、入浴といった日常生活動作能力の回復を目指す家事動作や趣味活動の再獲得、認知機能の維持・向上に向けた支援も行う |
| 言語聴覚療法(ST) | 失語症や構音障害などのコミュニケーション障害の訓練、飲み込みが困難な方への摂食・嚥下訓練などを行う |
これらは利用者の病状や障害の程度を評価し、個別のリハビリテーション計画に基づいて実施されます。
【機能訓練の実施内容】
機能訓練では、より生活に密着した幅広いメニューが提供されるのが特徴です。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 身体機能の維持・向上を目的とした訓練 | 関節可動域訓練、筋力増強訓練、立ち上がり訓練、歩行訓練、バランス訓練、マシンを使った運動 |
| 日常生活動作能力の向上を目的とした訓練 | 食事、着替え、排泄、入浴などの動作訓練調理や掃除などの家事動作、園芸や手芸などの活動機会の提供 |
| レクリエーション | 体操やゲームなどを通じて、楽しみながら身体を動かす活動 |
| 口腔機能・嚥下機能訓練 | 誤嚥性肺炎の予防を目的とした口腔体操、嚥下機能の維持・向上訓練 |
| 認知機能訓練 | 計算、書字の練習記憶力や注意力を維持するための訓練 |
個別対応から集団での体操やレクリエーションまで、利用者の状態や施設の方針に応じて柔軟に提供されます。
まとめ

介護現場でのリハビリと機能訓練には明確な違いがあります。
違いを押さえておくと、利用者への説明や記録作成の場面で自信をもって対応できます。
職場の同僚とも情報を共有し、チーム全体で正確に理解しておきましょう。
監修者:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士)


コメント