介護の現場の「トランス」とは?介助方法やポイントを徹底解説!

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介護の仕事に興味があるものの、まだ専門知識がなく「現場で使われる用語が難しい」と感じていませんか?

たとえば「トランス」という用語も、そのひとつかもしれません。

今回は、人の役に立ちたいという思いから介護職を目指す方に向けて、トランスの意味や効果、基本的な方法をわかりやすく解説します。

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介護の現場で使われる「トランス」とは乗り移りの介助のこと

介護の現場で使われる「トランス」とは、ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへといった乗り移りの介助を指す用語で、移乗ともよばれています。

トランスは日常的に行われている介助であり、介護に携わる人にとってしっかりと身に付けておきたい基本的な技術です。

正しい方法や手順を理解せずに行うと、介助者・対象者双方にとって大きな負担となり、転倒や腰痛といったトラブルにつながりかねません。

自己流のままで行わず、安全に行える方法を押さえておくことが重要とされています。

トランスがもたらす効果

介助の安全性を確保するために、正しい方法を学ぶことはもちろん大切ですが、トランスによって得られる効果も知っておきましょう。

褥瘡(床ずれ)や拘縮(関節が固まること)を予防できる

寝たきりの状態が続くと、身体の同じ部位に圧力がかかり続けて血流が悪くなり、皮膚や組織が壊死してしまう褥瘡(じょくそう):床ずれのリスクが高まります。

また、関節を動かさないでいると、筋肉や皮膚などの組織が固くなる拘縮(こうしゅく)を引き起こします。

トランスによってベッドから起きて過ごせれば、こうしたリスクが減り、身体機能の維持や改善にもつながるのです。

生活範囲が広がりQOL(生活の質)が向上する

ベッドから車椅子へ移れれば、食卓で家族と一緒に食事したり、窓際で外の景色を眺めたり、車椅子で好きな場所へ移動したりもできます。

生活範囲の拡大により、人との交流や趣味に打ち込める時間が増え、心が満たされます。

このように、トランスは単なる移動の支援にとどまらず社会参加の機会を増やし、QOL(Quality of Life:生活の質)を大きく向上させるのです。

トランス介助の方法を手順にそって解説

トランスの重要性や効果を理解したところで、次は実際の介助方法を確認していきましょう。

ここでは、ベッドから車椅子へのトランス介助を7つのステップに分け、対象者の右半身に麻痺があるケースを例に解説します。

①車椅子を設置する

車椅子はベッドに対して約30度の角度で、対象者の左側に置きます。

その際、ブレーキが確実にかかっていること、フットレスト(足置き)が上がっていることを必ず確認しましょう。

②起き上がり、ベッドの端に浅く座る

仰向けから身体を左向きにし、足をベッドから下ろすのを手伝いながら、上半身を起こします。

起き上がったらベッドの端に浅く座ってもらい、両足をしっかりと床に接地させましょう。

足が床についていないと、立ち上がる際に力が入らず転倒や転落の危険があります。また、安定して座っていられるかどうかも、必ず確認してください。

③対象者の膝を介助者の膝で支える

対象者に膝をおよそ90度に曲げてもらい、介助者は自分の両膝で相手の左膝を軽く挟みます。

これは、左方向へトランスする際に左足で踏ん張る必要があるためです。力がうまく入らないと、「膝折れ(急激に膝から崩れること)」が起きて転倒につながる危険があるため、膝を支えて安定させます。

④対象者の身体を支える

介助者は対象者の背中に両腕を回し、身体を支えます

ただし、わきのすぐ下に手を入れると相手の肩を痛める恐れがあるため、指1〜2本分下の位置から支えてください。ご本人には、介助者の肩や背中に手を回して抱きついてもらいましょう。

⑤「いち、にの、さん」で立ち上がる

まず「これから立ちますよ。おじぎをしてくださいね」と声をかけます。

「いち、にの」で体を前後に軽く揺らし、立ち上がるための勢いをつけましょう。

続いて「さん!」の掛け声で、相手に深くおじぎをしてもらうと同時に、介助者は自分の膝に力を入れて踏ん張ります。

このとき、真上に持ち上げるのではなく、対象者を斜め前に引き出すイメージで行うと、お尻が自然と浮き上がります。

⑥向きを変える

立ち上がったら、腰をひねらずに身体全体で向きを変え、対象者のお尻を車椅子の方に向けましょう。

その際、勢いをつけすぎてフットレストや肘掛けにぶつからないように注意してください。

ぶつかると、表皮剥離(皮ムケ)や身体の痛みにつながる危険性があります。

⑦車椅子に座る

勢いよくドスンと座らせるのではなく、体重をコントロールしながらゆっくり着座させましょう。

お尻が車椅子の真上に来たら「座りますよ」と声をかけ、介助者は膝を曲げながら重心を落とし、相手と一緒にゆっくり腰を下ろします。

最後にできるだけ深く座ってもらい、フットレストを下ろして足を乗せ、姿勢を整えたら完了です。

トランス介助で押さえたいポイント

「トランス介助の方法はわかったけれど、実際にやるのは不安」と感じる方もいるのではないでしょうか。

ここでは、より安全に、負担を減らして行うために押さえておきたいポイントを紹介します。

ボディメカニクスを活用する

ボディメカニクスとは、骨や筋肉、関節に負担をかけずに、最小限の力で効率的に体を動かす技術のことで、以下の8原則があります。

原則内容
①土台を広げてバランスをとる介助者の足を肩幅以上に開き、土台を安定させる
②重心を低くする膝を曲げ、腰を落として下半身の力を使う
③身体を密着させる対象者に密着し、両者の重心を近づける
④大きな筋肉を使う腕の小さな筋肉ではなく、太ももやお尻の大きな筋肉を使い、安定した力を出す
⑤体をねじらずに動く体をねじるのではなく、足・膝・体幹・頭部の向きを同時に変える
⑥水平に移動させる真上ではなく横にスライドさせるイメージで動かす
⑦身体を小さくまとめる対象者の手足が広がらないようにコンパクトにし、重心を安定させる
⑧てこの原理を活用する介助者の膝を支点にして相手を支え、お尻を浮かせる

これらの原則を活用すると、力任せにならず少ない力で効率よく介助できるでしょう。

残存機能を活用する

トランス介助では、以下のように対象者の残存機能を活かした方法が推奨されています。

  • 手すりを握って自分で身体を支えたり、引き寄せたりしてもらう
  • お尻が浮いたら足で踏ん張り、膝を伸ばしてもらう
  • 着座する際にはゆっくりと腰を下ろしてもらう

このように、できる動作を行ってもらうことで対象者の機能が維持され、自立を助けます。

介助者は、不足する部分だけを補うように介助しましょう。

環境を整える

より安全に介助するためには、環境調整も欠かせません。介助しづらい環境で無理に行うと、介助者の腰痛や対象者のけがにつながる危険性があります。

安全に行うために、以下の項目を確認しておきましょう。

項目内容
ベッドの高さベッドを車椅子と同じか少し高めに調整する腰かけたときに足裏が床につく高さにする
車椅子のパーツフットレストを外したり、肘掛けを跳ね上げたりして、動きのさまたげにならないようにする
周囲の障害物を取り除く床を這うコードや、ベッド周囲のゴミ箱・杖などを動線から取り除くベッド柵が介助のさまたげになる場合は、一時的に外す

介助の際は、項目ごとに指差し確認をするのがおすすめです。

移乗介助機器の活用も検討する

人の力だけで抱え上げようとせず、移乗介助機器を活用しましょう。

介護従事者の腰痛予防の観点から、厚生労働省や多くの自治体が、リフトやスライディングボードなどの機器の活用をすすめています。

【参考】厚生労働省「保健衛生業における腰痛の予防」

代表的な機器を見てみましょう。

福祉用具の種類特徴
スライディングボードベッドと車椅子の間に橋を渡すようにボードを設置し、座ったまま滑るようにトランスする
スタンディングリフト座っていられる方の立ち上がりを補助する機器立った姿勢のまま、リフトごとベッドから車椅子、トイレなどへ移動できる
介護リフト電動で吊り上げて移乗する専用のシートで身体を包み込み、寝た姿勢のままで安全に移乗できる

こうした機器を使うことで、体格の大きい方や介助量の多い方も安全にトランスできます。

まとめ

介護の現場で行われるトランスは、対象者の心身機能を維持し、QOLを高めるために欠かせない大切な技術です。

正しい方法を身につければ、介助者・対象者双方の負担を減らし、安全に行えます。

「専門用語が難しそう」と感じていた方も、トランスの意味や方法を知ることで、介護の仕事をより身近にイメージできるはずです。ぜひ、今後の学習に役立ててください。

監修者:中谷ミホ(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士)

鈴木 康峻

2008年に理学療法士免許取得。介護老人保健施設で入所・通所・訪問リハビリに携わりながら、介護認定調査や審査会、地域ケア会議などに関わっています。
現役の理学療法士だからこそ得られる一次情報を活かし、ライターとしても活動。医療・介護に関する記事を執筆しています。
保有資格:理学療法士、ケアマネジャー、福祉住環境コーディネーター2級など

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