国家資格である管理栄養士が活躍できる場所は多岐に渡っており、高齢者施設もそのひとつです。
高齢化が進む日本において、高齢者の心身の健康を食の面からサポートする管理栄養士の需要は年々高まっています。
そこで本記事では、高齢者施設で働く管理栄養士の仕事内容や役割、平均給与などをくわしく解説します。
高齢者施設における管理栄養士の役割
管理栄養士は、施設利用者が安全に食事を摂り、栄養を摂取できるようサポートする役割を担います。
介護保険制度では、管理栄養士を配置する事業所が積極的に利用者の栄養状態の改善・維持に取り組む場合、介護報酬(※)が上乗せされる仕組みがあります。
(※)介護保険制度の下で、介護サービス事業者が利用者に提供したサービスに対して支払われる対価のこと。
ここからくわしく見ていきましょう。
食を通じた利用者の健康管理
加齢とともに食べ物の咀嚼や嚥下機能が低下するため、高齢者は食事量が少なく栄養摂取量も減少する傾向があります。
低栄養状態の高齢者は、以下のようなリスクを抱える恐れがあります。
- 疾病のり患率・死亡率・要介護度の増大
- QOL(生活の質)の低下
さらに、嚥下機能低下により咀嚼した食べ物が気管に入ると、誤嚥性肺炎を発症する危険性もあるのです。
高齢者が食べやすい食事を提供し、必要な栄養を摂取できるよう務めるのが管理栄養士の役割です。
介護報酬加算の取得
2021年度の介護報酬改定で、高齢者の自立支援と介護度の重度化を予防する目的で栄養に関する取り組みが強化されました。
通所施設、入所施設ともに管理栄養士または栄養士を1名以上配置するなどの要件を満たせば、栄養ケア・マネジメントに関する介護報酬加算を取得可能です。
介護報酬加算を取得することで、利用者により質の高いサービスを提供でき、事業所の経営も安定するなどのメリットがあります。
栄養ケア・マネジメントの詳細は、後述の「高齢者施設における管理栄養士の仕事内容」にて解説します。
管理栄養士が働ける高齢者施設
管理栄養士が働ける高齢者施設のうち、要件を満たせば栄養ケア・マネジメントに関する加算を得られる施設の一部を表にまとめました。
入所施設 | 通所施設 |
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設・介護医療型医療施設(一部除く)・介護医療院 | ・通所介護(デイサービス)・通所リハビリテーション(デイケア)・看護小規模多機能居宅介護 |
管理栄養士は基本的に夜勤がありませんが、入所施設は1日3食の献立や調理を担当するのに対し、通所施設では昼食のみを担当するなどの違いがあります。
高齢者施設における管理栄養士の仕事内容
利用者に提供する食事の献立作成や調理と、利用者一人ひとりに適した栄養ケアを行う栄養ケア・マネジメントが管理栄養士の主な仕事です。
ここからくわしく見ていきましょう。
食事の献立作成
管理栄養士は、高齢者が低栄養状態に陥らないための食事の献立を作成します。
食事は生きるうえでの楽しみのひとつでもあるため、栄養バランスと同時に利用者が食べる喜びを感じられる、美味しさを意識した献立にすることが大切です。
また、1週間の長期的な視点で見た栄養バランスを考えて肉や魚などバリエーションに富んだ献立を作成し、利用者を飽きさせない工夫も求められます。
さらに、季節の行事に合わせておせちやちらし寿司などの行事食も取り入れると利用者にとって良い刺激になり、大変喜ばれます。
食事の調理・提供
事業所によっては、食事の調理や提供も管理栄養士の仕事のひとつです。
利用者一人ひとりの咀嚼力や嚥下機能に応じて、以下のような調理の工夫をします。
- 食材を細かく刻む
- お茶や汁物にトロミをつける
- 流動食にする
高齢者の食事中は、窒息や誤飲などの事故が起こりやすいため、利用者の状態を適切に把握して調理することが大切です。
厨房の衛生管理
食事を提供する施設では、食品衛生責任者の配置が義務づけられています。
通常、自治体や保健所が実施する食品衛生責任者講習会を修了する必要がありますが、栄養士は講習会を受けずに食品衛生責任者として従事できます。
食品衛生責任者としての仕事内容は、主に以下の3つです。
- 厨房の衛生管理の徹底
- 食品衛生上の問題を施設責任者に進言
- 事後的な衛生検査用の検食
「事後的な衛生検査用の検食」は、食中毒事故が発生した際の原因究明や再発防止などに役立てるためのもので、以下が概要になります。
- 食品や材料ごとに約50gずつ清潔な容器に入れて密閉し、マイナス20℃以下の専用冷凍庫にて2週間以上保存する。
- 材料については洗浄や殺菌をせず、購入した時の状態のまま保存する。
- 調理済みの食品は、配膳後の状態で保存する。
衛生事故の防止はもちろん、万が一事故が発生した際に迅速に対処するためにも、衛生管理は重要な仕事です。
栄養ケア・マネジメント
栄養ケアに関する介護報酬加算は、入所施設では「栄養マネジメント強化加算」、通所施設では「栄養アセスメント加算」と呼ばれます。
加算の算定要件は複数の項目があり、それぞれ以下の管理栄養士の人数の配置が必要です。
- 入所施設・・・入所者50名(施設に常勤栄養士を1名以上配置し、給食管理を行っている場合は70名)につき、1名以上配置
- 通所施設・・・事業所の従業員として、または外部との連携により管理栄養士を1名以上配置
算定要件に含まれる栄養ケア・マネジメントの内容も、入所施設と通所施設で異なります。
一方で、利用者に応じた栄養ケアプランを作成し、食事の様子や体重測定などを通じて利用者の栄養状態を把握する点は共通しています。
また、栄養ケアプランの作成にあたっては、介護職員や看護師などの他職種と共同して行うことも算定要件のひとつです。
さまざまな職種と情報共有して知見を得ることで、利用者の適切な理解に役立ちます。
高齢者施設で働く管理栄養士の1日の流れ
管理栄養士の働き方は施設や勤務形態によりさまざまです。ここでは、入所施設における常勤の管理栄養士の1日の流れを見ていきましょう。
時間 | 勤務内容 |
8:30 | 出勤 |
9:00 | 昼食の準備~調理・配膳 |
12:00 | 休憩 |
13:00 | 栄養補助食(おやつ)の準備・事務作業(献立作成・他職種とのカンファレンスなど) |
15:00 | 夕食の準備~調理・配膳 |
17:00 | 下膳・後片付けなど |
18:00 | 退勤 |
早番・遅番がある施設の場合は、出勤と退勤の時間が上記より数時間変動します。
なお、朝食の準備や提供は、パートの栄養士や調理師が担当する施設が多いです。
高齢者施設における管理栄養士の平均給与
令和4年12月の管理栄養士・栄養士の平均給与は以下の通りです。
月給・常勤の場合 | 316,820円 |
時給・非常勤の場合 | 1,150円 |
(出典:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」)
近年、国が介護施設の処遇改善に力を入れており、年々給与は増加傾向にあります。
また、上記のほかに正社員の管理栄養士であればボーナスが2〜4か月分支給される施設も多く、平均年収は約380〜400万円となっています。
まとめ
高齢者施設における管理栄養士の役割は非常に大きいです。
利用者一人ひとりが安全に、美味しく栄養を摂取できる食事を提供することで、栄養状態の改善だけでなく生きる意欲の向上にもつながります。
勤務形態は基本的に夜勤がなく、常勤やパートなど働き方も多様なので、自身のライフスタイルに応じて無理なく働けるのも魅力です。
福祉の仕事に興味のある管理栄養士の人は、ぜひ高齢者施設への入職を検討してみましょう。
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